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データで読み解く企業ブランディングの未来

ステークホルダー資本主義時代の広報戦略

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① 株主資本主義からステークホルダー資本主義へ
② 多様かつ具体的なステークホルダーを意識
③ 正しい広報戦略が企業価値向上へと繋がる

企業のステークホルダーといえば、以前はもっぱら株主などが優先され、事業活動においては株主利益の最大化が最優先の使命とされてきました。こうした企業経営の考え方を株主資本主義と呼びます。

これに対して、最近“ステークホルダー資本主義”という考え方が広まってきています。近年、持続可能な社会といった考え方が浸透するにつれて、売上や利益ばかりを追求する企業は海外ではもちろん、わが国でも評価されなくなりました。つまりステークホルダー資本主義とは、経済的・金銭的な利害関係者だけでなく、地域社会や環境、行政機関など企業活動全般において関係が生じる全ての利害関係者に貢献することを目指す考え方です。

このような時代において企業価値を向上させるには、それぞれのステークホルダーとより良好な関係を結ぶことを前提にする必要があります。企業の対外的なコミュニケーションの窓口を担う企業広報は、もはや欠かせないものとなっています。

企業広報の現場の変化

「企業広報が重視するターゲット・ステークホルダー」を2014年時点の調査結果(企業広報戦略研究所「企業広報力調査」)で見ると、「株主・投資家」、「顧客」の2つが群を抜き、第3位はやや下がって「メディア」が続きます。この段階では、広報活動がいわゆる株主資本主義的ステークホルダーに集中している様子がうかがえます。

ところが、2020年時点の同調査では、上位2項目は変わらないものの、「従業員とその家族」78.7%、「メディア」74.9%、「取引先」74.3%、「就活生・学生」71.5%など、第3位以下が軒並み値を伸ばし、企業が重視したいステークホルダーが拡散していることが分かります。特に「従業員とその家族」、「就活生・学生」、さらに「地域住民」などが顕著に増加しました(図1)

図1 企業広報が重視するターゲット・ステークホルダー
上位回答を掲載
調査概要
第1回企業広報力調査(2014年、上場企業479社、郵送・インターネット調査)
第4回企業広報力調査(2020年、上場企業474社、郵送・インターネット調査)

また、企業広報においてステークホルダーとの「関係構築力」にかかわる活動を2018年と2020年の調査で比較してみると、取り組んでいる活動上位はいずれの年も「IR部門と連携し、投資家向け広報を実施している」、「トップと従業員が直接会う機会を設けている」が占め、差がありません。

その一方で、「お客さま相談部門の情報を広報部門が共有し、適切な対応をしている」、「顧客や地域住民と直接的に交流する機会を設けている」などが増加しており、企業広報の現場においても、対ステークホルダーの活動が多様化しているといえます(図2)

図2 企業広報においてステークホルダーとの「関係構築力」にかかわる活動
(*関係構築力:重要なステークホルダーと、相互の理解・信頼関係を恒常的に高めるための活動と、実行する組織能力)
上位回答を掲載
調査概要
第3回企業広報力調査(2018年、上場企業518社、郵送・インターネット調査)
第4回企業広報力調査(2020年、上場企業474社、郵送・インターネット調査)

つまり、より幅広いステークホルダーから、自社がどのような評価を得たいかを明確化し、その獲得すべきレピュテーションに向かって戦略を組み立てていく動きが現場では生まれているのです。

企業価値向上のために

社会と良好な関係を結ぶには、自社のファクト(事実)を、自社が向き合っているステークホルダーそれぞれに合った形で整理し届ける必要があります。例えば、就活生と地域住民が求めている企業の情報を比べると、まるで異なることは容易に想像できるはずです。ただしここで気を付けなければならないのは、発信する情報や対応がそれぞれ異なっても、その根底にある企業の価値観、理念は一貫していなければならない、ということです。

情報の流通構造が複雑になった昨今では、自社のレピュテーションを把握し、その上で情報を整理・発信することは容易ではありません。重要ステークホルダーに「どのような手段でどんなメッセージを届けるのが最適なのか」を意識すると同時に、炎上対策を考えておくことも重要です。なぜなら重要ステークホルダーを意識するあまり、そのほかのステークホルダーへの対応が疎かになる可能性があるためです。そのため、これまで以上に計画的な広報活動を行うこと、広報戦略の重要性が増しているのです。

より多様なステークホルダーとの関係をより良好なものへと進化させることが、ステークホルダー資本主義時代の企業価値の向上に繋がると考えられます。

関連記事はこちらのサイトでも展開中。
https://note.prx-studio-q.com
「PRX Studio Q」
電通PRコンサルティングのプランニングチームによる公式note

企業広報戦略研究所
主任研究員
電通PRコンサルティング(旧電通パブリックリレーションズ)

※2021年9月20日より社名変更
生井達也(いくい・たつや)
コーポレートコミュニケーションの観点から、調査分析を起点に、企業のブランド価値向上に向けた広報戦略立案としてのPR業務に従事。報道論調分析、ソーシャルリスニング、インターナルブランディング、SDGs戦略立案などを担当。

企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ(当時)内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究などを行う。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

CASE

より良い社会の実現に向けて

サントリーは創業以来の価値観として「利益三分主義」を掲げています。事業で得た利益は、事業への再投資に留まらず、お客様と社会に還元するという考えです。

2020年6月に設立した使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む新会社「アールプラスジャパン」の取り組みも、この創業精神に根差した活動のひとつです。プラスチックのバリューチェーン全体にわたる共同出資企業12社が一丸となり、ステークホルダーの皆様に向けて、世界のプラスチック課題解決を日本からリードしていくという強い思いを発信しました。その思いは、多くの方々の認知と共感、ご賛同をいただき、現在、共同出資企業は32社まで拡大しています。

サントリー
ホールディングス
広報部
藤沢 潤氏

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