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データで読み解く企業ブランディングの未来

これからの広報戦略に必須の社会価値視点とは

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① ESGは生活者においても、企業を評価するモノサシに
②「誰に」「どう思われたいか」の明文化
③ ステークホルダーの共感を、企業の価値につなげる

近年、企業広報の軸足がいわゆる「話題づくり」広報から「価値づくり」広報へとシフトしています。メディアに取り上げられやすい話題づくりを通して企業の認知やイメージを高める広報から、企業が社会課題に向き合う姿勢を訴求して自らの社会価値を高める広報へと変質しつつあるのです。

そうした変化の要因は、3つあります。1つ目は、情報の洪水の中でも埋没しにくい「価値」のある情報発信の重要度が増していること。2つ目は、コミュニケーションターゲットが話題づくり広報におけるメディア指向から各企業にとってのステークホルダー指向へと変化し、より良い関係づくり(Relationship)を重視するようになってきたこと。3つ目は、社会全体でSDGs/ESGが企業価値として認知されるようになったことです。

高まるESG認知と広報の変化

実際に各社の企業広報が担うテーマは、社会課題への取り組みが増加の傾向にあり、社会の理解も急速に浸透しているという調査結果が出ています。

企業広報戦略研究所が2年に1度実施している企業広報力調査では、第1回(2014年)から第4回(2020年)の間に、企業広報のテーマにおいて最も増加したのは「CSR関連」でした(38.2%から57.6%で19.4ポイント増)。即ち、すでに過半数の企業で社会課題への取り組みを広報テーマとしています。

また、同研究所が2021年に実施したESG/SDGs調査によれば、生活者によるSDGsの認知度は76.7%に達し、ESGについても33.1%が認知していました(図1)。特にESGに関しては、同調査において、投資意識(興味)のある生活者の7割以上が投資を考える際に企業のESGを考慮するという結果も出ています。

図1 ESGの認知率

調査期間:2021年6月23日(水)~6月30日(水)
調査対象:全国の20~69歳の男女10,000人
調査方法:インターネット調査
企業広報戦略研究所調べ「2021年度 ESG/SDGsに関する意識調査」より

ESGはSDGsに比べるとまだ高い状況ではありませんが、生活者における認知率は着実に伸びを見せており、企業が中長期的な投資先として評価され続けていくためには、もはや広報がESGをテーマにすることは欠かせない状況になってきました。

「ファクト」にもとづいた発信を

この先、ESGに関する認知・理解が社会にいっそう広く深く浸透していけば、当然ESGの実際のアクション=実績が注目されます。「ファクト」の裏付けがない、いわば能書きレベルの情報発信では効果が期待できません。

具体的に「何に」ついて自社が「なぜ」「どのように」取り組んでいるか、企業それぞれがESGの取り組みの実績を発信しなければならないのです。

一方、生活者に企業が積極的に取り組んでいると思うESG項目を聞くと、E(Environment 環境)、S(Social 社会)、G(Governance 統治)のいずれの分野にも大きく偏らない数値が出ていますが、「S」の分野に関する取り組みへの認知率がやや高いようです(図2)

図2 一般生活者が、企業が積極的に取り組んでいると思うESG項目

※調査概要は図1同様で、複数回答(N=10,000)
※ESGに関する項目について聴取したものを、合算してE、S、Gの3項目で再集計

その「S」分野で生活者が特に期待している具体的なアクションは、「消費者にとって分かりやすい表示・説明」、「従業員にとって健康・安全で、働きやすい環境の整備」、「生産者の労働環境や生活への配慮」などでした(図3)。生活者の関心は、単に消費者のみにとどまらず、従業員や生産者など幅広いステークホルダーに対する取り組みへと向けられています。

図3 S(社会)のカテゴリにおいて、企業の積極的な取り組みを期待するESG項目

※調査概要は図1同様で、複数回答(N=10,000)

ESG広報で誰に何を伝えるか

それぞれの企業の幅広いステークホルダーとの関係づくりを強く意識しなければならないのが「価値づくり」広報のセオリーですが、ESG広報では、広報戦略として株主だけにとどまらないターゲティング視点が欠かせません。戦略的に優先順位を設定し、アクセスしなければならないステークホルダーをきちんと見極める必要があります。

そのうえで、事業内容から生まれたESGの「ファクト」を、自社ならではの取り組みとして発信することが何より重要です。その発信により他に類のない一貫性のある独自のコミュニケーションが可能となります。結果として「歩留まり」のよい継続的な広報効果が期待できるでしょう。

ESGは今後企業にとって「当たり前」の取り組みになると思われますが、情報を発信し、生活者に認知されることで、企業価値がより高まります。その意味で、社会課題解決の一環として取り組んでいる自社の活動に関する情報を効果的に発信し、ステークホルダーの共感を得ることで、自社の価値を高めていく、という「価値づくり広報」が重要になるのです。

詳細は企業広報戦略研究所サイトにて https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-topics/20211101.html

企業広報戦略研究所
電通PRコンサルティング(旧電通パブリックリレーションズ)

※2021年9月20日より社名変更
主任研究員
西山友佳子(にしやま・ゆかこ)

食品、化粧品、クレジットカード業界などの領域において、データを活用したプランニングやコーポレート・コミュニケーション戦略の立案などを担当。企業広報戦略研究所では、顧客エンゲージメントに関する研究に従事。

企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ(当時)内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究などを行う。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

OPINION

社会価値と経済価値の両立を目指して

デロイト トーマツでは、社会課題解決に向けた企業の戦略立案や新規事業立ち上げ支援などを行っており、政府・NGOとも連携し、より良い社会をつくるための活動を行っています。

例えば日本のNGO ACE、ガーナ政府と、ガーナにおける児童労働撤廃に向けたガイドライン策定を支援し、それを基に国際的なルール形成に向けて活動中です。またコートジボワールのカカオ産業における児童労働撤廃を目的とした、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステム構築をJICA事業にて実施しています。企業にとってリスクを低減するだけでなく、新たな価値の創出を目的としており、課題解決と経済価値の追求は決してトレードオフではないと考えています。

デロイト トーマツ
コンサルティング
マネジャー
小野美和氏

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