メディア史の観点から、広報活動にかかわるメディアについて考察する本連載。今回は、企業ブランディングの重要性について理解を深められるメディアについてです。
近ごろ、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020年11月14日~21年2月14日、東京都現代美術館)、「佐藤可士和展」(2021年2月3日~5月10日、国立新美術館)など、企業広告の歴史と深くかかわりのある大規模展覧会が相次いで開催され、いずれも評判を呼んでいます。
とはいえ、石岡瑛子展は閉幕していますし、佐藤可士和展に足を運ぶのが難しい方も多いでしょう。そこで本稿でおすすめしたいのは、図録(公式カタログ)です。ビジュアル(図版)が充実していることは言うまでもないのですが、それに負けず劣らず、テキスト(論考やエッセイなど)が実に魅力的なのです。
名作から見えてくるもの
アートディレクターとして国際的に活躍した石岡瑛子氏(1938-2012)については、広報担当者にとって、という観点に絞れば、1970年代における企業広告の仕事が注目に値します。70年代初頭に手掛けたパルコのキャンペーンは、屈指の名作として評価されています。70年代は奇しくも、日本の企業にCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略が本格的に導入された時期と重なっています。
もっとも石岡氏自身は、80年代初頭に活動拠点をニューヨークに移し、広告の仕事から少し離れることになりますが、例えば1989年には、東急百貨店の企業理念やイメージを一新するCI戦略を統括し、ロゴやポスター、包装紙などのアートディレクションを手掛けました。
石岡氏の仕事はつねに...