
どんなときも優位な状況をつくれる
負けない交渉術
大橋弘昌/著
朝日新聞出版
256ページ、1650円(税込)
人生は『交渉』の連続だ。商談、受注・発注、社内承認などビジネスパーソンには様々な交渉シーンがある。その点、広報担当者の場合、メディア、株主、従業員など様々なステークホルダーと日々、やりとりして関係を構築しなければならない。交渉術は広報担当者にとって身に付けておきたいスキルだ。
そこで本書が役立つ。米国で長年、弁護士として仕事をしてきた著者が、具体的な事例を交えつつ交渉のノウハウを伝える。
虚偽は交渉の誤った打ち手
本書記載の内容で、広報と特に親和性の高い点を聞くと、「嘘をついてはいけない、しかしすべてを話す必要はない、と説明したトピックでしょうか」と著者。なぜか。日本企業の中には、不祥事などが起きた際、嘘をついてしまったがゆえ、窮地に立たされる企業がある、と指摘。「米国には嘘をつくことに厳しい社会風土があります。裁判当事者の虚偽の証言は重い偽証罪となります」。しかし著者は、日本企業がそのあたりへの備えが甘いと言う。
「例えば、従業員を解雇する際、事実と異なる解雇理由を伝えたりしていると、従業員に不当解雇の訴訟を起こされたときにほころびが出る。だからこそ、言いにくい解雇理由でもきちんと伝えるべきだ、と私もよくクライアントに言います」。
また著者によれば、相手が求める情報に応じて伝えるべき内容を取捨選択することも大事だと言う。「以前に顧客企業が、業績不振で米国子会社を閉鎖する、といった発表をお詫びのトーンを交えて発表しようとしたとき、その内容を変更するようアドバイスしたことがありました。業績不振を対外的に文書でお詫びすべきではなく、子会社の閉鎖という事実だけを伝えればよいのです」。
日本に交渉術の啓もうを
本書、実は2007年に刊行された書籍の加筆修正版。執筆するに至った経緯を聞くと、「米国で仕事をしていると、顧客の日本企業が交渉を躊躇(ちゅうちょ)するシーンを頻繁に目の当たりにします」と話す。
例えば、特許侵害。日本の顧客企業が大手取引先に特許技術を盗まれ、その盗用技術を使った侵害製品によってマーケットシェアを失った。
「その結果、マーケットからの撤退を余儀なくされ、別のマーケットに移るも、そこでもまた技術を盗まれる。そうした悪循環を是正したい。米国企業であれば、自社特許を侵害した製品が売れれば自社にロイヤリティが自動的に入ってくるよう、大手取引先が相手でもハードな交渉をし、交渉が成立しなければ訴訟を起こし、ロイヤリティ契約の締結にこぎつける。そのような交渉術の重要性をもっと啓もうする必要がある、と考えたのです」。
高まる交渉術の価値
さらに、年々交渉術の重要性は高まっていると言う。その背景には、日本製品の世界市場における優位性の喪失がある。「今までは優れた日本製品が黙っていても売れた時代です。交渉はしなくてもよかったのです。しかし中韓、台湾などが台頭してきたことにより、日本ブランドは苦境に立たされています。しかし、それを補う交渉力があれば、まだまだ活躍できるはずです」と語った。

大橋弘昌(おおはし・ひろまさ)氏
米国ニューヨーク州弁護士。日本国外国法事務弁護士。1966年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業、サザンメソジスト大学法科大学院卒業。西武百貨店商事管理部、山一證券国際企画部を経て、渡米しニューヨーク州弁護士資格を取得。
米国の大手法律事務所ヘインズアンドブーン法律事務所にて5年間プラクティスした後、2002年に大橋&ホーン法律事務所を設立。現在、ニューヨーク、ダラス、東京の3都市に事務所を構える。