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著者インタビュー

地域ブランド戦略に必要な「意味」のイノベーション

薄上二郎氏

地域ブランドのグローバル・デザイン
薄上二郎/著
白桃書房
213ページ、2500円+税

盆栽、陶芸、養蚕など、日本には地域にねざした伝統産業が多く存在する。その多くがグローバルレベルでは非常に魅力的であるにもかかわらず、日本人自身が魅力に気付いておらず、結果として、有効なブランド戦略を打ち出せていない。そうした問題意識から、伝統産業の差異化戦略や顧客とのタッチポイント、KPIの設計、そして注目すべきケーススタディなどをまとめているのが、薄上二郎氏がこのほど上梓した『地域ブランドのグローバル・デザイン』だ。

同書の前半は、「理論編」で学術的観点から地域ブランドの分析方法を解説。後半は、国内とイタリアでの調査研究をまとめた「ケーススタディ編」である。盆栽、養蚕、姉妹都市交流や、地域ブランドのガバナンスなどこれまでには見られない事例を含めて地域ブランドの今後の方向性を示している。

「理論」と「事例」で分かりやすく

前半の「理論編」は、経営学の見方を整理した上で競争優位獲得のための差異化戦略、カスタマージャーニーを意識したタッチポイント戦略、KPIのデザインなどを、分かりやすく解説している。後半の「ケーススタディ編」では、国内とイタリアのカ・フォスカリ大学留学中に著者が実施した地域ブランドの調査結果から、特徴的な事例を取り上げまとめている。

ケーススタディのひとつを紹介する。東京ブランドになっている金網メーカー・石川金網のブランド「おりあみ/ORIAMI®」だ。これは金網でできた“折り紙”で、折り鶴などが折れる柔軟性と、金網本来の剛性から、形を長く維持できるのが特徴だ。

なぜ同ブランドを本書で取り上げたか。その理由は「意味のイノベーション」にある。「意味のイノベーション」は、ミラノ工科大学教授、ロベルト・ベルガンティの著書『デザイン・ドリブン・イノベーション』の中で取り上げられたキーワードである。「意味のイノベーション」が意図するところは、既存の概念にとらわれないという点だ。

ある日、石川金網の社員のひとりが休憩時間中に金網を折り紙のように折った。それがきっかけで、金網を再定義し、それをトップが支援したことで、注目される商品開発につながったのだ。

金網の意味は、建設現場では危険物の落下防止、鳥の侵入防止、食品分野では不純物や異物を取り除くことなどだが、この商品における金網の意味は「装飾」や「アート」。既成の概念にとらわれず、同じ物質・製品にも新しい意味を見出す、それが「意味のイノベーション」。この「意味のイノベーション」に、地域ブランドが生き残る策が隠されている。

タッチポイントとリスク広報

広報担当者にとっての読みどころも著者に聞いた。「タッチポイント」は「ヒューマンタッチポイント」と「デジタルタッチポイント」に大別され、昨今はDXが注目されがちだ。しかし、地域ブランドの視点から言えば、ヒューマンタッチポイントが競争優位獲得のための重要なポイントになるという。

もうひとつはリスク管理を意識したタッチポイントの拡充である。コロナの影響で、リスクコミュニケーションや安全管理はますます重要になっている。リスク管理は、「担当が違う」では許されなくなった。リスク管理の視点を組み入れた活動が今後の方向性ではないかと述べた。

薄上二郎(うすがみ・じろう)氏
1957年生まれ。青山学院大学経営学部教授。研究分野は、国際経営論、地域ブランド戦略論。1981年中央大学商学部卒業。1983年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了(経済学修士)。1994年ジョージ・ワシントン大学大学院公共政策研究科修了(Ph.D.)。東京都立短期大学・首都大学東京助教授や大分大学経済学部教授を経て、現職。

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