新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
新型コロナウイルスで職を失う人がいる一方で、慢性的に人手が不足している業種もあります。物流業界のトラック運転手もそのひとつで、10万人以上が不足との説もあります。
今回、取材したアサヒロジスティクスは食料品に特化し、東日本で確固たる地盤を築いている企業。女性ドライバーの労働環境を改善するために、女性専用トラックを導入したリリースを配信しました。
同社では現在、在籍するドライバー2000人のうち女性は100人。若者の現場離れが進む中、女性を貴重な戦力と捉え、最終的には全体の10%まで増やすことを目標にしています。
社内では女性の働きやすさを促進する「クローバープロジェクト」を組織しており、中心となっているのは、今回取材を受けてくれた物流効率推進グループマネージャーの朝日奈緒美さん。
案件ごとに関係部署が参加する形式で、今回は車両の購買を担当する総務グループグループ長の星野力さんも参加しました。
女性専用トラックの導入を決定したのは昨年10月のこと。プロジェクトメンバーでミーティングを開き、実際にドライバーとして働く女性たちから、トラックに関して改善してほしい点などを吸い上げました。
例えば、トラック庫内の荷物を固定するラッシングベルトを掛ける位置。男性基準で高い位置に設計されているのを、女性でも使いやすいように低くしました。
車内に小物類を収納するスペースを増やしてほしいという声も挙がりました。女性は携帯する小物が多いほか、無雑作に置きがちな伝票などを、きちんと収納したいという要望もあったといいます。
また、運転席の正面と左右全体をカバーできるカーテンも設置しました。これまでは、夏場に汗をかいたときなどにコンビニのトイレを借りて着替えを済ませていたといいます。カーテンを設置することで、安心して車内で着替えられるというわけです。
実は、ドライバーの中には「平等に仕事をしているので、女性だからといって特別扱いされたくない」という意見の人もいたそうですが、人手不足解消にはイメージ改善が大切であることなどを丁寧に説明し、理解を求めたといいます。
同社のトラックはカラフルな折り紙が並ぶ可愛らしいデザインで、1990年から取り入れています。女性専用トラックは、その1枚をプロジェクト名のクローバーにしています。
また、物流業のイメージ改善に早くから取り組んでおり、星野さんによれば、同業者に先駆けて平成の初めごろからドライバーにネクタイ着用の義務付けも行っています。
また、中型・大型トラックの運転免許を持っていない人でも積極的に採用し、免許取得から運転のアドバイスまで手厚く指導しています。
そうした社風のせいか、業界全体が感じているほど深刻な人手不足には見舞われていないそうですが、それでも物流業界にもっと関心を持ってほしいという思いがあるといいます。
広報活動に取り組み始めたのは昨秋のこと。朝日さんが社命を受けて私のPR講座に参加したのです。その課題で提出してくれたのが、本件リリースの原型でした。最初に読んだ感想は、女性専用のトラックをつくることは分かるけれど、文字ばかりで従来もしくは競合と何が違うのか、それに至った経緯がよく分かりませんでした。
その時点ではビジュアルの素材がなく、朝日さん自身も「トラックのことをよく知ってほしい思いだけが強かった」と振り返ります。
ただ、コンテンツは...