新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
日本全国が新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態下に置かれました。経済活動が停滞し、経営の危機に見舞われている事業者も数多くいます。私自身も講演がすべて中止になり、コンサル業務に出かけることもままならず、例外ではありません。
けれど、この厳しい状況でも戦略広報(企画段階から広報を意識した商品やサービスなどを開発すること)を駆使して生き残ろうとしている企業が数多くあります。私にできることは、そうした事例を知ってもらい、広報で打つべき手があることを伝えることだと考えました。苦境にある企業を元気づける意味も込めて、通常の連載とは少し異なる構成で進めたいと思います。
まずは、大分県の坂井建設のリリースをご覧ください。不動産業界は、物件に足を運んでもらうのが難しい状況です。しかし在宅時間が長くなっている今、先延ばしにしていた住居問題をじっくり考えたい人も少なくないはず。そこで同社が考えたのが「リモート住宅見学会」。社員がウェブカメラを駆使して物件を隅々まで案内し、スマホやパソコンを通してリアルタイムで見学できるというサービスです。
もうひとつは、私が代表を務めるカレー総合研究所(カレー総研)のリリース。巣ごもり生活で高まる内食需要に、気軽にバリエーションを楽しめるご当地レトルトカレーはうってつけです。そこでカレー大學の卒業生らとウェブ会議を開いて選んだお薦めカレーをまとめたのがこのリリースです。
緊急事態下になって私が感じているのは、「三密」「テレワーク」「オンライン飲み会」など、次々にキーワードが誕生するということです。
(ポイント1)坂井建設は「リモート○○」、カレー総研は「巣ごもり消費」を、それぞれ見出しに使っています。こうしたキーワードにメディアや消費者は敏感に反応します。キーワードは日々移り変わっていくので、キーワードウォッチングを欠かさず、自社が今やろうとしていることにピッタリ合ったキーワードを、時期を外さずに使うことが大切です。
(ポイント2)今なぜ必要なのかもしっかり書きましょう。坂井建設は感染リスクを減らして在宅時間を有効活用してもらうこと、カレー総研は家で食べられることに加えてメディアからの問い合わせが多いことも挙げました。ちょうど新型コロナウィルス問題が顕在化したころから、レトルトカレーの特集を組みたいという声が増えていたのです。こうした理由を明記することにより、この時期にわざわざリリースを出す価値があることが明確になります。
(ポイント3)メディアの記者も普段以上に多忙を極めているので、いつも以上に1枚目のビジュアルだけでリリースの全体像が伝わるようにしましょう。カレー総研は10種類のレトルトカレーを推薦していることが一目で分かりますし、坂井建設もイラストを使って、お客さんの見たい場所を社員が詳細にウェブカメラを通して案内してくれることをうまく説明しています。
リアルに言ってしまえば、この時期はメディアも取材できる相手が限られますし、暗い話題が多い中で、少しでも前向きな話題を探しています。そうした背景もあって、坂井建設もカレー総研も、想像以上に多くのメディアから反応がありました。
戦略広報にみる4つの切り口
ではここからは、緊急事態下で世の企業がどんな戦略広報を駆使し、メディアに取り上げられているのかを見てみましょう。その中にはきっと、ビジネスのヒントも隠されているはずです。
4月下旬の段階で、目につく話題は別表のように4つの切り口に分かれています。1つめは...