新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
2019年にコスメティック事業部のリリースを紹介したウエニ貿易は、事業部ごとに広報担当者がおり、それぞれ広報のやり方もまったく異なります。コスメティック事業部はブランドマネージャーがブランディング施策の合間に頑張っている様子が伝わってきましたが、今回は時計事業部のリリースを見てみましょう。
同事業部はドイツの「ツェッペリン」やイギリスの「ヘンリーロンドン」など、世界的に人気の時計ブランドの日本総代理店を務めるほか、「エンジェルハート」や「ペッレモルビダ」などオリジナルブランドも手がけています。そして2019年10月に日本で初めて販売したのが、イタリア発の人気ブランド「スピニカー」です。
腕時計の世界では数年ごとにトレンドがあり、現在はリバイバル風なデザインで機能性にも富んだヴィンテージダイバーズウォッチが人気。中でも世界的にブームなのが、このスピニカーなのです。
ダイバーズウォッチはこれまで、スイスのメーカーの機械式駆動装置を搭載した1台20~30万円という高価なものが主流でした。しかし、他国製の駆動装置が普及し、5万円以下で購入できるようになったことも人気の理由のひとつです。
時計事業部では2019年7月ごろにメーカーからスピニカーを提案されました。社内で高評価だったのに加え、セレクトショップでのヒアリングも非常に好感触だったため8月に導入を決定。10月1日を発売日とし、9月17日にはリリース配信という早業でした。
マーケティング&コミュニケーションズスーパーバイザーでPRなどを担当する中田俊介さんらは、公式サイトと同時進行でリリースづくりを進めました。時計事業部の広報担当はコスメのように営業戦略までは担当しないものの、広告や販促、ホームページなどと合わせて業務を遂行しています。
苦労したのは情報収集です。先方から届いた資料が十分ではないため、提供してほしい情報や画像をリクエストする必要がありました。海外企業だと何度もやり取りができないため、求める回答をスムーズに得られるように広報と貿易部、営業とで内容を検討してから質問集を送ったといいます。
特に求めたのは、スピニカーというブランドが持つ特性や歴史、日本でも人気を呼びそうだというポテンシャルが伝わる事実などです。
「日本初上陸ブランド」を柱に
そうして集めた素材を駆使してできたのが今回のリリースです。最大のセールスポイントは「日本初上陸」であり、その理由や狙いが最も大切な要素となります。(ポイント1)それを時計事業部の統括部長という責任ある人物の言葉でまとめています。社内とはいえ時計の専門家ですから説得力がありますし、顔が出ることで親近感も湧きます。
(ポイント2)そして2枚目を丸々使い、ブランドについて詳しく解説しています。伝えるべき要素はたくさんありますが、全部入れると煩雑になりがちです。そこで、「コンセプト」「名称」「変遷」というメディアが関心を持ち、記事が書きやすくなる点に絞っています。
(ポイント3)また、時計などのメカニックな製品では、リリース1枚目にスペックを載せるのが慣例ですが、それを3枚目に回しています。
時計マニアだけが対象なら1枚目でもいいかもしれませんが、幅広いメディアや消費者には「世界的に人気のあるブランドが日本初上陸」という切り口が最も響くので、それを前面に押し出すべきなのです …