ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
小湊鐵道のTwitter公式アカウントが5月12日、担当者の解任をきっかけに一時休止になったことを千葉日報が報じた。これが「Yahoo!ニュース」に掲載されるなどしてネット上に広く拡散した。
報道では、担当者が約1年前からひとりでアカウントを担当し、ユーモアのある内容でフォロワーを約1000人から1万人以上まで増やしたこと、そして担当を外した理由が本人と会社側で異なる主張だったと伝えた。
11日夜に公式アカウントは、「本日Twitter担当をクビになりました」とツイート。それをきっかけに「#小湊鐡道中の人の不当解任に抗議します」というハッシュタグがTwitterのトレンドに入るなど注目を集めた。騒動も影響したのか公式アカウントは、12日時点で過去の投稿が「ゴッソリ削除」されたなどとツイートしている。
小湊鉄道は14日付で「お詫びとご報告」と題するコメントをHP上に掲出。「弊社ツイッターにてデータが削除される事態が発生したが、弊社指示で行った事実はございません」と書かれていた。公式アカウントが次に更新されたのは6日後の20日で、「お詫び」として始まる連続ツイートで「今後の対応が決定次第、ウェブサイトにて報告」するとした。代表取締役名だった。
ひとり担当で起きた悲劇
以前、音楽小売の英国HMVが経営破たんした際、大量解雇が起きた。その中に含まれていたSNS担当が、会社の公式アカウントから解雇の様子をツイートした事件をこのウェブリスク24時で書いた。「自分も含めて60人が今、同時解雇された」「上司であるマーケティングディレクターから、Twitterの閉鎖方法を聞かれた」などと約6万人のフォロワーを持つアカウントから放たれたツイートが、瞬く間に世界をかけめぐった。2013年のことだ。今回と同じひとり担当だった。
ひとりでSNS運用を担当するのは、組織と担当者の双方にとってリスクである。役割や責任が曖昧になりやすく、日々の運用でも明確な指示を受けずに進めがちで、担当者の試行錯誤が良くも悪くも個人芸になりやすい。そうなると引き継ぎも難しくなる。結果的に組織的な理解や評価が得にくくなる。成果指標に見られやすいフォロワー獲得のため、目立ちバズる発信が選ばれやすく、そうした投稿が組織内で問題視されるケースも少なくない。逆に組織的な管理や監視が厳しければ、立ち上げの難易度は極めて高くなる。
SNSを組織インフラに
新型コロナの緊急事態宣言下に47都道府県庁を調査したところ、Twitter公式広報アカウントが存在しないか稼働していなかったのは6県のみだった。知事の記者会見は、全都道府県がYouTubeなどでネット配信していた。SNSは今や「あれば良い」不要不急ツールではなく、社会で「不可欠」とされている情報インフラだ。今回のような騒動を改めて教訓として、組織のインフラに位置づけたい。
社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |