ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
「働き方改革の一環で、フィンランドが週休3日制の導入を検討する」。時事通信がそう報じたのが1月7日朝のことだった。記事は6日に欧州メディアが報じたことを情報源とした。
これに対して駐日フィンランド大使館は公式Twitterで7日夕方、「新政権と首相が所属している党の目標にもないし、計画もない」と否定した。その際、「確かにマリン首相は、首相になる前の去年8月に党の会と地元紙で労働時間の短縮のビジョンを持っていると語ったのは事実」とも書いた。
フェイク対策は重点テーマ
今年は米大統領選挙の年だ。2016年の大統領選では、多くのフェイクニュースが選挙の結果に影響を与えたことが分かってきており、フェイク対策は今や世界的に大きなテーマになっている。Facebookも新年早々、別の映像を使い本物のように加工したディープフェイク動画の削除を宣言した。
組織としても、本当か嘘か分からない情報にきちんとした対応を取ることが重要な意味を持つ時代になっている。保釈中のカルロス・ゴーン被告が国外逃亡したニュースが駆け巡った年末年始、ゴーン氏がNetflixと独占契約をしたとも報じられたが、同社は直後の取材で明確に否定した。
フィンランドの週休3日制の情報はまずSNS上で広がった。放っておけば「ネットで話題」とテレビが追いそうな勢いだった。そこで大使館はTwitterを使った。素早いスタンスの明確化と情報拡散の点で、これが良かった。15万人以上のフォロワーを持つアクティブなアカウントだったことも有効に作用した。その後、フィンランド政府が公式Twitterで出した英語の公式声明をリツイートしている。
嘘や噂との付き合い方
「噂にはコメントしない」は広報における従来のセオリーだろう。なぜ噂にはコメントしないのか?
噂にコメントしていてはキリがないからと考えられがちだが、大切なのは「根も葉もない」ということ。信頼するに足る根拠や出所が分からないのがポイントだ。逆に、噂がどこから出たのかはっきりするなら、それを一緒に伝えることで誤解は打ち消しやすい。フィンランド大使館が、今回のニュースは去年8月の情報と書いたことには、その点で重要な意味があった。
もちろん明確に否定できる時ばかりでもない。何らかの事情でコメントできないこともある。そんな時に意識しておきたいのは、組織の姿勢として、利用者を含むステークホルダーの安心・安全、そして信頼を守る取り組みとしての情報提供ができているかだ。
「ネットで話題」は今やマスメディアの貴重なニュース素材。放置すれば、メディアのネタにされ、最初は冗談と受け止められても繰り返し刷り込まれることで現実と捉えられる危険性もある。その点で報道が出る前にコメントを出すべき状況も考えられそうだ。明確に否定しないことが長期的な問題を生むことも踏まえて判断したい。
社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |