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新型肺炎対策で厳しい情報制限下でのメッセージ発信

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

厳しい制限下でのメッセージ発信
新型コロナウイルスの集団感染の疑いで横浜港に停泊していた「ダイヤモンド・プリンセス号」の運営会社は、複数の幹部による動画メッセージを発信している。

乗客のウイルス感染が確認されたことをきっかけに、2月3日から横浜港で停泊が始まったダイヤモンド・プリンセス号では、約3700人の乗客・乗員を乗せたまま日本政府の管理下で検疫が進められていた。運営会社である米国籍のプリンセス・クルーズ社は、自分たちの意思に関係なく結果的に顧客と従業員の自由を奪う形となり、先の見通しも立たず積極的に発信できる情報も少ない状況だった。

そんな中、2月8日に同社は公式Twitterで上席副社長(EVP)による4分弱の動画メッセージを配信し、船内の様子と環境改善の取り組みを紹介した。その後も社長や主席医務官など経営幹部が繰り返し顔出し動画で状況をアップデートしている。

情報発信が困難な時の対応

国籍も様々な多数の乗客・乗員を閉じ込め、世界のメディアが注目する中、日を追うごとに感染者が増えていく。船内からは乗客が外の世界へ情報を発信し、メディアからのインタビューを受けている。にもかかわらず当局の監督下で制約も多く、広報対応は容易ではない。

そんな状況で同社が選択した経営幹部の動画メッセージを、制約の厳しい条件下でのコミュニケーション手段のひとつとして注目したい。

同社のTwitterは元々、世界各地の絶景写真などを投稿するような、クルーズ船の旅の楽しさをアピールするアカウントだった。トーンを変えたのは2月6日。「10人の感染が確認され、少なくとも14日間の船上隔離になります」と伝えた後、関連情報を1日に何度も更新するようになる。またウェブ上でも整理した情報の公開を始める。

動画メッセージのポイント

2月8日公開の動画メッセージは、船内ではなく広く一般に向けたものだった。船外では24時間のサポート体制を敷いていること、船内の人の精神衛生を少しでも良くしたい想いから、自由に電話ができるようにし、ネット回線を充実させ、テレビのチャンネルを増やしたという。具体的な取り組みまで伝えているところがポイントだ。

また「SNSで発信されたたくさんの応援メッセージに大いに励まされている」と感謝した上で、情報を継続更新すると約束して終わっている。この約束もポイントのひとつである。

メッセージ通り、Twitterは船内外から発信された関連情報をシェアし、寄せられる声にこまめに返信している。またその後も複数の経営幹部がカメラの前で語っている。

動画メッセージが、問題を解決したり不安を払拭したりするわけではない。しかし約束したことを守り、難しい状況でも情報発信を続ける姿勢は、広くステークホルダーにアピールするものと考える。すでに同社は別のクルーズ船の集団感染もあり、今後、クルーズ船事業のイメージ悪化や風評リスク、訴訟リスクの恐れもありそうだ。今回のコミュニケーションの価値が明らかになるとすれば、その時かもしれない。

社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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