「大学で最も大きな存在(ステークホルダー)は学生である」ということに疑念を抱く大学関係者はいないと思います。にもかかわらず、基本的に4年間で卒業してしまう学生とのリレーションの構築を、広報的視点から考えることはあまりないように思います。筆者自身、研究の対象としてきたのは教職員であったり、大学組織全体であったりと学生を対象としておらず、学会発表や論文査読のコメントでも「学生を分析対象にしてはどうか?」という指摘をよく受けます。もっとも、そのような時は「今後の課題です」と回答するのが精一杯ですが。
新型コロナウイルスによる感染症拡大防止の観点から多くの大学が2020年度春学期中の対面授業を取り止め、教職員と学生とのコミュニケーションが難しくなっている今、学生に対してリレーション構築の前提となる大学の現状や理念、それに歴史などについて、これまでどのように伝えてきたのかを振り返ることで、今後の一助になればと思います。
学生と大学の歴史と理念を共有する
本誌2019年6月号に掲載した本連載5回目では「理念浸透」の観点から組織内広報を取り上げました。この時は大学の「従業員」ともいえる教職員を対象に、筆者の個人研究の成果を交えて、経営トップが理念を具現化した行動を示すことの重要性を紹介しました。理念のキャッチフレーズ化や広報誌による紹介などのコミュニケーションツールは、それ単体では補助的な役割に過ぎなかったわけですが、「経営トップと広報部門が連携することでその機能を高められる」というのが筆者の主張です。
学生を広報活動の対象として考える場合、教育を担う教員とのかかわりを見過ごすことはできません。理念に即した日々の教育活動こそが、学生が大学の理念を体現していく上で重要な要因になると考えられるからです。教職員に対して経営トップの行動が重要であることと同じように。しかし教育活動のあり方まで広げてしまうと誌面が足りなくなるため、今回は「自校教育」と「広報誌」という大学の現状や理念そのものを伝える取り組みから考えます。
自校教育は大学業界特有の教育プログラムです...