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IRの学校

IPOによって変わること

大森慎一(Prop Tech plus 監査役)

広子たちはIR担当として、忙しくも充実した日々を送っている。今週は久々にIR担当者の勉強会「IR-NEXT」の懇親会に参加した。IPOをPR・IR担当として支えた知人の話を聞き、刺激を受けたようだ。



広子東堂:こんばんは。

大森:こんばんは。今週は何かあった?

広子:はい!昨日参加したIR担当者の懇親会で、新規上場の準備から担当された方とじっくり話す機会がありました。

大森:ほうほう

東堂:以前お会いした方の話と若干違うところがあって、違和感があった部分もありましたね。

大森:なるほど。どんな違和感かな?

広子:簡単にまとめると、昨日お会いした方は、「IPOの前後で、一夜にして風景が変わったような錯覚まで感じた」と。で、以前お会いした方は、「作業量は大変だったけど、質的な変化はあまりない」って。どちらが本当なんですか?

大森:わはは。それはあまりに感覚的な部分だから、なんとも言えないな。

広子:私は、上場した後に広報部門から異動してきたし、東堂も上場後に入社してからIR担当に配属されたので、IPOの前後の変化には興味津々なんですよ。

大森:IPO前後の環境変化はその都度話している気もするけどな。

広子:だからこそ大森さんお得意の「整理してまとめて説明」ってやつお願いしますよ。

大森:まいったな⋯⋯。

毎日更新される株価

大森:まず前提として、上場前には十分な体制が敷かれているかの審査をされながら対応準備をしていく必要があるので、IPOを機に日常業務が大きく変化することはない。

広子:なるほど。じゃあ、大きく変わるところはなんですか?

大森:「知名度・注目度が上がる」とかがあるけど、現象面での大きな質的な変化は「投資家が変わる」ことと、「毎日株価がつく」ことかな。特に株価は自分たちで決めることもできないし、常に何かと比較されて、採点・評価されるようになる。比較対象は過去や将来の自社かもしれないし、同業他社かもしれない。

東堂:そこですか。

大森:単純な話にすると、上場前は企業側が自分たち主導で株価が決められる。もちろん、資金需要と投資家の評価を勘案しながらだけどね。

東堂:そういう意味ですか。上場後は、「市場が株価を決める」ことが大きな変化なんですね。

大森:そうだね。未上場時は多くても四半期に一度、少なければ1年に1回しか評価されない。株価は基本的に変動せず、株式移動や増資の際に、改めて見直すことになる。

広子:確かに株価が下がり基調の時などは、毎日憂鬱ですね。でも、毎日株価がつくから何かを特別にする、って話ではないですよね。

大森:いいねぇ、その通り。だけど、毎日株価がつくための環境を整える必要があるね。

広子:適時開示ですね?

大森:そうだね。常に投資情報を最新かつ公平に公表している状況を保つことが要求されている。そして他の情報と比較しやすいような工夫も必要だね。

東堂:フェア・ディスクロージャー・ルールもそうですよね。

大森:そうだね。これらは、投資家に株式投資判断をする機会を与え、増やすことを意味する。だからこそ、売買が成立するんだ。

IPOがもたらす時間的な猶予

東堂:そういえば以前、「毎日IRネタを探してリリースする」とおっしゃっている担当者の話を聞きました。特にIPO直後は忘れ去られないように必死だったって。

大森:本当は逆なんだけどな。

広子:えっ、そうなんですか?

大森:確かに、IPO直後は注目されるからその間に評価を上げたい、って思うのは仕方ないけど、IPO直後に大きな材料が発生するっていうのは、本当にタイムリーなのかなと疑問がわくね。それに、需給によって株価が左右される期間でもあるから、一喜一憂せずに「ファンダメンタルな理解を促し、ファン株主を増やす」という第一義的なIRに徹してほしいけどね。そうでないと、IPOが目的になっているんじゃないかな、とまで感じる …

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