新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
PRのプロフェッショナルにとって重要なミッション。それは「ストーリー」を語ることである。ファクトやデータで人は動かない。心の琴線に触れる会社や人、モノ、サービスのストーリーに惹かれるのだ。海外企業が大いに注目するこの「ストーリーの力」。日本企業はどのように活用していくべきかを考えていこう。
万人共通の感情を共有する
アメリカに住んでいた5年前、PRのプロが頻繁に口にしていたのが「ストーリー」だった。PRの世界だけではない。文化や人種の異なる人々で成り立つアメリカは、万人が共通の感情や理解を分かち合えるプラットフォームとしてストーリーがあらゆる場面で活用される。宣教師から政治家、学校の先生、親、ビジネスリーダーに至るまで多くの人が、「ストーリー」を駆使し、相手を鼓舞し、説得し、理解を得ようとする。
「ストーリー」の力を高く評価しているアメリカでは、そのつくり方、語り方について学ぶ機会も多い。筆者もそうしたクラスやワークショップに通い、ブロードウェイのアクティングスクールでもそのノウハウを徹底的に教え込まれた。
それでは、ストーリーとは一体何か。簡単に言ってしまえば、人を楽しませたり、興味を引いたりするように組み立てられたお話、とでも言えようか。ストーリーライン、プロット(筋書)があり、聞く人を引き込むようにつくられる点が単なる事実の羅列のような文と大きく違う。
人類史上、最も読まれた書物であろうキリスト教の「聖書」や仏教の教えが、ここまで幅広く信仰を集め、語られ続けているのも、ストーリーの力ゆえだ。新約聖書はある意味、イエス・キリストの一生を描いた壮大なアドベンチャーストーリーとも言えなくもないし、仏教の法話もお釈迦様などの主人公が苦悩や苦難を乗り越える姿を様々なエピソードで紹介したパーソナルストーリーとも解釈できるのではないだろうか。
ストーリーの本質的な特徴
ストーリーには、大きく分けて2つの本質的な特徴がある。
❶ 誰かの経験、誰かと誰かの関係など、個人に照準をおいたパーソナルな話
❷ 感情が、糸のように織りなされ、交錯しながら根底に流れていく話
データや数字、抽象的な言葉はなかなか心に刺さらないが、ストーリーでは、聞く人は主人公の感情の流れに入り込んだかのように、ハラハラ、ドキドキを体感したり、悲しみや驚きに共感したりできる。だからこそ、記憶に残りやすく、理解がしやすい …