新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
PRプロフェッショナルの最大の悩みは何だろう?セミナーなどで広報担当者の方々とお話しすると、最も多い相談内容は「トップや幹部の理解がない」というものである。今回はこの、答えの出ない大問題について考えていきたい。
「言わなくても分かる」は幻想
広報関連のセミナーでお話をするときに、出席者に意見をうかがうと、必ず登場するのが「トップや幹部」に関する不満や悩みだ。例えば、以下のようなものが多い。
●広報はタダのものだと思っている。だから予算がつかない
●大したネタもないのに、とにかくメディアに出せと言ってくる
●トップの話がつまらない
●あまり、コミュニケーションに重きを置いていない
●トップが広報に理解がなく、メディアに出たがらない
こうした声が出てくるのは若手のスタートアップというよりは、中堅・大手企業の場合が多い。「以心伝心」「沈黙は金」といった日本的な「言わなくても分かるカルチャー」に長らく身を置いてきた幹部層に特有な考え方のようだ。アイルランドの著名な劇作家、バーナード・ショーの「コミュニケーションにおける唯一最大の問題は、それが達成されたという幻想である」という言葉があるが、激烈につまらない話でも、口にしたとたん、それが相手に伝わり、目的は達成されたと思い込む企業幹部は非常に多い。
企業トップ、幹部にとって、最も枢要な経営スキルは「コミュニケーション力」であるが、日本において、その重要性を理解している経営幹部は残念ながら、それほど多いとは言えない。
本音は「社会貢献より利益優先」
トップ層とPRの現場担当者の意識の乖離という点では、グローバルにおいても、同様の傾向があるようだ。210人のCEOと、1583人のPRプロフェッショナルを対象にアメリカ・南カリフォルニア大学(USC)のAnnenberg Center for Public Relations がこのほど実施した調査「2019 Global Communications Report」でCEOのコミュニケーションに関する意識について興味深い結果が出た。
コミュニケーションのゴールは何かという問いに対し、「商品やサービスを売るため」と答えた人の比率はPRの担当者が25%だったのに対し、CEOは44%と極めて高かった。また「社会的問題などについて声を上げるべきか」という問いに対し、PRの担当者は69%が「上げるべき」と回答したが、CEOは40%。
「どういった社会問題について言及するべきか」という問いに、「多様性や包摂」と回答した割合は担当者が64%に上ったのに対し、CEOは28%に留まった(図1)。トップは「社会貢献よりも利益が優先課題」と捉えている傾向が浮かび上がり、現場とトップとの温度差が明らかになった …