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企業変革を促す 社内コミュニケーション

「世界のCSV先進企業へ」 KIRINがグループ報を刷新

キリンホールディングス

2027年に向けて、長期経営構想を掲げているキリンホールディングス。同社では経営ツールのひとつとして、2007年に紙のグループ報を創刊した。2019年に入り、誌面のリニューアルを手がけた担当者がその経緯を語る。

*本記事は宣伝会議主催のイベント「アドタイ・デイズ2019」(4月23日・24日)内で行われた講演をレポートしたものです。

キリンホールディングスは、傘下にキリンビールやキリンビバレッジなどの酒類・飲料から、協和キリンといった医薬まで、食から医にわたる領域で多くの企業を抱えています。2007年のホールディングス化から10年以上が経ち、グループ会社間のエンゲージメントスコアの差は縮小しつつあります。しかし、事業が多岐にわたるため各社間の意識の差はあり、従業員一人ひとりのグループへの帰属意識をさらに高める必要があります。

なぜいま紙のグループ報なのか

その上で、私たちキリングループを唯一つなぐインターナルコミュニケーション媒体が、紙のグループ報『きりん』です。従業員は所属組織や雇用形態も異なり、情報の受け取り方も様々ですが、紙であれば必ず渡すことができ、読んでもらえます。加えてアーカイブ性もあり、視認性も非常に高い。よって冊子の活用は非常に有効ではないかと考えています。

そして今年、キリングループは2027年に目指す姿を「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV(Creating Shared Value)先進企業となる」として、長期経営構想「KV2027」と2019年中期経営計画を発表しました。『きりん』も経営ツールのひとつとして、この目指す姿を軸に設計し、ぶれない編集方針を意識しています。

『きりん』は2007年に創刊し、2015年と2019年のリニューアルを経て、現在に至ります。発行は年4回で、毎号28ページ。配布対象は国内の従業員約2万3000人になります。海外拠点の従業員に対しては、冊子の一部を英訳し、PDF化したデータをメールで配信しています。

編集体制はリーダーと、広報業務との兼任2人の3人体制です。制作会社のディレクターなども含めて6人で1つのチームを組み、連携しながら制作を進めています。

発行目的は大きな観点で2つあります。ひとつは経営方針とグループ情報の共有、理解促進。もうひとつが、従業員のモチベーションアップです。そのなかで気をつけているのは、「現場の従業員の目線を通して経営方針を伝える」という点になります。社内の取り組み事例を社長自身の言葉で語ることも大事なアプローチですが、実際にどのような従業員が関わったかが見えなければ、なかなか読んではもらえません。『きりん』は従業員が主役で、その活躍が見えるように構成しています。

読み手のターゲットも明確に定めました。将来グループを担うのは誰かと考えたとき、今の30代が頑張らなければ未来はないということから、コアターゲットを若手リーダーやリーダー予備軍に定めています。編集コンセプトは「"やってみよう"を後押しする」としてきました。30代の従業員が数十年後を見据え、「やってみよう」と思えるような誌面づくりを意識しています。

経営層やリーダー陣は知っていても、現場は知らないこともある。そんな情報もしっかり伝えていく。知って助かる、読んでよかったと思ってもらえるようなグループ報を目指してきました。

30代の頑張る姿を伝えてきたことで、20代の若手従業員たちは「先輩たちが頑張っている」、上の世代は「後輩が追い上げてきている」と感じて気を引き締めるという、それぞれの世代への波及効果もありました。また、ターゲットを明確にしたことで、誌面のデザインや書体なども現代的に変えました。写真をふんだんに使ったビジュアルも意識した誌面で、「見やすい冊子になっている」との声も届いています。

リニューアル1号目、2019年春号の表紙。リニューアル前と同様、内容が一目で分かるように工夫されている。

社内の生の声を反映させる

グループ報のターゲットを定める際には、「30代の満足度が低い」という社内アンケート結果も考慮しました。アンケートは定期的に実施。グループ従業員2万3000人からランダムで抽出した650人ほどに回答をもらい、ニーズをつかもうとしています。回答率は60%ほどで、読者である従業員からは「経営トップの考えていることが分かる、もっと知りたい」という声が多いです。

2万3000人のなかでも経営トップに会える従業員はごく一握り。グループ報を通してトップの考えを伝えることは、発行目的にもかなっているため、こういった声が寄せられると安心します。また、「モチベーションが上がる」「読む価値がある」といった声も嬉しいですね。

アンケートから誕生した記事もあります。2018年度に評価が高かった、「何度でも、挑む」という特集です。2018年度のヒット商品「本麒麟」を取り上げ、10年以上にわたる新商品の開発の歴史を振り返りました。きっかけは、「グループ報には失敗事例が載っておらず、成功事例ばかりでつまらない」というアンケート結果に真正面から向き合ったことでした。失敗から何を学んで成功に至ったか、様々な苦労を重ねてヒット商品が生まれたことが伝わるようにしました。

また、グループ報を読むのに費やしてもらえる時間は短い場合で5分ほどというアンケート結果から、見た瞬間に興味を持ち、「何が書いてあるのか」が一目で分かるように、表紙に目次を入れるようにしました。市販の雑誌も表紙に何が書かれているかで購入が決まるように、忙しい時間のなかで読んでもらうためにも、表紙の仕掛けも重視しています。

リニューアル後の誌面。継続の連載で従業員をピックアップする「写心館」や海外のグループ会社をレポートする「海外の、今ここがおもしろい!」でも、アンケートをもとにデザインに改良を加えている。

CSVと徹底的に向き合う誌面

グループ報として社内で一定の評価はされてきたものの、課題はまだあり、「社長がCSVの実践と言っているけれど、具体的に何か分からない」という声もあります。そこで長期経営構想が発表された直後の2019年4月というタイミングで、グループ報もリニューアルしました。コンセプトも「新しいキリンに出会おう」に変えています。ターゲットは30代のままで、等身大というよりは「背伸びをしてどきどき、わくわく、そわそわするような変化を起こそう」というメッセージが伝わるようなデザインにしています。

「CSVの先進企業を目指す」という会社の方針が本気で伝わる構成にするため、新しい『きりん』では表紙から裏表紙まで、全編にわたってCSVの要素を散りばめています。

リニューアルして1回目の2019年春号では、「なぜ私たちは世界のCSV先進企業を目指さなければいけないのか」を考える特集を組みました。「キリングループ外で起こっている事実に、しっかりと向き合えているか?」という問題意識から、KV2027・2019年中計の策定の背景となった外部環境を知ることが狙いです。戦略への理解を深めて世の中の動きを見る目を養い、自らの頭で考える材料を提供しようと考えました。キリングループで働く上で知っておくべき情報を集めています。

人気連載をリニューアル

また、連載コーナーもリニューアルを機に大きく変えました。「CSV is...」というコーナーでは、「CSVの実践」を知る機会を提供しています。初回は、CSV担当役員にCSVにまつわる素朴な疑問を編集部が投げかける仕立てにしました。従業員による「CSVの自分ごと化」が不十分という問題意識が背景にあり、読んだあとに「CSVは誰もが取り組める。向き合わなければいけないことだ」と感じてもらいたいと考えています。

ターゲットである30代の従業員に人気が高いのが、「隣の芝生はたしかに青い」という、他社を訪問し学ぶ連載です。初回はKV2027で掲げる「価値創造を加速するICT(情報通信技術)」の異業種における取り組みを学びました。アンケートでも「自分たちの事業に活かせる気づきがあり、視野が広がった」という声が出てきています。

CSV戦略担当役員に直接インタビューし、従業員の疑問を解決。従業員が自らの課題としてCSV活動を捉えられる誌面づくりにこだわった。

連載企画「隣の芝生はたしかに青い」。2019年春号では、三菱UFJ銀行のICTの取り組みを取材した。

誌面連動で動画も活用

現状は、季刊で年4回しか情報を届けられないという課題も抱えています。冊子は深掘りした情報を理解してもらうことに適していますが、ウェブと比べると即時性に劣ります。また、トップの情熱を冊子だけでエモーショナルに伝えるのは難しいと考えています。

それらの課題への新たな挑戦としたのが、2019年の2月に発行した特別号です。キリンホールディングスCEOのメッセージを伝えるために、メディアミックスにも挑戦してみました。動画を初めて活用し、冊子に掲載されたQRコードを読み取ると、CEOが熱っぽく語る動画に飛ぶという仕掛けになっています。今後も紙媒体のみにこだわらず、様々な形態にチャレンジしてみようと考えています。

「キリングループは世界のCSV先進企業だ」と、ステークホルダーの皆さまに言っていただくこと。そして、私たち従業員自身も誇りをもってそう言えることこそ、グループが目指す理想とする姿です。2027年の目指す姿に向けて、これからインターナルコミュニケーションの強化にますます取り組んでいきたいと考えています。

『きりん』は、2018年度「経団連推薦社内報」に2016年度から3年連続で選出された。

photo/樋木雅美

キリンホールディングス
コーポレートコミュニケーション部
川角久美子(かわすみ・くみこ)氏

PRSJ認定PRプランナー。キリンビールに2007年入社。量販営業などを経験後、2016年4月からキリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部へ。現在は、キリンホールディングス全体のインターナルコミュニケーションを担当しており、主にグループ報『きりん』の編集に携わる。グループ報『きりん』は、「経団連推薦社内報」として2016年から3年連続で入賞。

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