新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
食はまちおこしの起爆剤です。私もカレーで様々なまちおこしに携わっていますが、今回は味噌で地元を盛り上げている企業に取材しました。
マルマンは1888年の創業以来、長野県飯田市に根差して製造を続けている信州みそのメーカーで、多数ある味噌会社の中で出荷量は全国20位ほどに位置しています。広報を担当しているのは営業企画部の中田泰雄さん。中田さんの祖父である中田栄造氏が1951年にマルマンを株式会社化しました。
中田さんがまちおこしにちなんで開発したのが「焼肉の街 南信州・飯田の辛みそ」という商品です。近年、みその消費量は減少しており、全国味噌工業協同組合連合会の統計によれば、2000年からのおよそ20年間で全体の出荷量は約2割落ち込んでいます。
状況を打開すべく、最大手のマルコメは麹を使った商品など味噌の関連商品に力を入れて展開していますが、中小のメーカーが同じ土俵で闘っても勝機はないと考えた中田さん。味噌加工品の分野で、しかも大手が入り込めない地域色の強い独自商品の開発を模索します。そんな中で目をつけたのが、焼肉に合う辛みそでした。
地元イベントで記者人脈を拡大
実は飯田市は「人口1万人当たりの焼肉店舗数日本一」の街なのだといいます。2014年ごろから開発を始めた中田さんは、一方で広報の重要性も感じて私のPR講座にも参加していました。そして2015年に地元で開かれたイベント「焼來肉(やきにく)ロックフェスin南信州・飯田」の広報担当を買って出ます。イベントを通じて飯田下伊那食肉組合の人たちと出会い、開発へのアドバイスや監修を受けて、10回以上の試作を繰り返したあと、2016年7月に発売へとこぎつけました。
発売の際には記者会見を開催し、その呼び込みも兼ねて、マルマンの第1号リリースを配信。販売地域も限られているため、地元メディアに限って集中投下をした結果、会見には10社ほどが集まりました。県庁所在地でテレビ局がある長野市から150キロも離れている飯田市に10社も集まったのは驚異的です。読売、日経、中日、信濃毎日、南信州の各新聞、長野朝日放送やケーブルテレビと、地域の主要メディアはほぼすべて取り上げてくれました。
「ロックフェスの広報で記者の人たちと知り合いになっていたことが大きかったです」と中田さん。その翌日には会社まで辛みそを買いにお客さんがやってくるなど、メディアに露出することの大切さを実感したようです。販売店は食肉組合加盟の精肉店約20店と、地元のローカルスーパーチェーン7~8店舗に限定したのですが、通常の商品の5~6倍の売れ行きを記録するヒットとなりました。
今回の誌面で紹介するのは、2017年4月に「焼肉の街 南信州・飯田の辛みそ」の累計販売数5000個突破を記念して高速道路のサービスエリアで大容量瓶を発売した際の第2号リリースと、2018年8月にそのサービスエリアでの販売が2万個を突破したことを知らせる第3号リリースです。この2件の達成リリースについてポイントを解説していきましょう。
マルマンでは、(ポイント1)達成リリースに必要な要素を分かりやすく定型化しています。まずは何個達成したのかという「数字」をタイトルに。これがないと達成リリースは始まりませんが、それ以外の構成は各社で違います。マルマンの特徴は「棒グラフ」で売れ行きを示したことと、最下段で達成した「理由」も自己分析していること。メディアが必要とする要素をぬかりなく押さえています。
また、「棒グラフ」で売れ行きを表したことで、右肩上がりの伸びが一目でよく分かります。(ポイント2)初めての取り組みで比較対象がないため、自社の販売計画と対比させることで計画を上回っていく様子も見て取れ、視覚にアピールしています。さらにグラフに吹き出しで商品写真と数字を入れ、分かりやすくする工夫が効いています。尚、中田さんは一度会社宛てにファクスをして、写真がつぶれそうなら明るく補正するなど、念入りな確認の手間も惜しみません …