新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
パッケージのデザイン変更は、定番商品が古びないようにするために欠かせないイベントです。
けれど、新商品の発売でもなかなかニュースにしてもらえない昨今、デザイン変更程度でメディアに取り上げてもらうことは至難の業。気づかれぬ間にひっそり変わっているのが通例です。
そんな中、メディアで紹介されていた事例があったので、その勝因を探ってみたいと取材しました。
商品は、大幸薬品の「クレベリン」シリーズ。オフィスや自宅などに置いて、ウイルスや細菌などへの感染対策をする衛生管理製品で、テレビCMでご存じの方も多いでしょう。私も風邪の季節などには周りからうつされないよう、スティックタイプのものを胸ポケットに差して愛用しています。
大幸薬品は"ラッパのマークの正露丸"で有名で、クレベリンと同じ会社なのは意外かもしれません。実は創業者の孫で4代目代表取締役社長の柴田高氏は元外科医です。
2004年、知人から二酸化塩素分子でつくった消臭剤を勧められ、解剖室で試用してみたところ、実際に匂いを消すだけでなく除菌効果も見られたことから本格的に開発を開始。2005年に業務用、2008年に一般用の販売も開始し、正露丸に続く第2の柱に育ててきました。
「幸い、正露丸もクレベリンもカテゴリーリーダーではありますが、競合商品も出てきています。若い人の中には正露丸の匂いを嗅いだことがない人もいて、転換期に来ているのは確かです。中長期的に見てブランドをさらに際立たせ、企業価値を高めていくことが必要と全社的に判断しました」とリニューアルの経緯を説明するのはPRマネージャーの中島杏子さん。
大幸薬品は、2018年3月に佐藤オオキ氏が率いるデザインオフィスnendoとパートナー契約を結びました。その第1弾がクレベリンのデザイン変更だったのです。
大幸薬品は大阪の企業で、最近まで広報機能も大阪のみでしたが、昨秋に中島さんが入社したタイミングで、メディアに近い東京オフィスにも広報を設置。大阪でコーポレート広報を、東京は製品広報を中心に担当することになりました。
東京オフィスにはマーケティング部隊が拠点を置いているため、このデザイン変更についても中島さんに早い段階から情報が入ってきていました。リリースは8月に入ってから書き始め、商品画像などもギリギリで間に合い、9月13日の発売に対して9月3日にリリースを配信しました。
ニュースバリューを意識
では、そのリリースを見ていきましょう。まず(ポイント1)タイトルや本文の冒頭で「国内トップブランド」であることや、衛生管理製品の「市場自体が拡大中」であることなど、消費者に与える影響度の大きさをアピールしています。
中島さん自身、デザイン変更だけではニュースバリューが弱いことを意識しており、❶市場が伸びていること、❷なぜ変えるのかという理由を1枚目に入れたそうです。
(ポイント2)2枚目は「人」を前面に押し出しています。この連載で以前から「人は人の顔があると目が引きつけられる」と話している通り、顔が入るのと入らないのではインパクトが大きく異なります。
ここでクローズアップしたのは、デザイナーの佐藤オオキ氏。大幸薬品では、デザインが素晴らしいだけでなく、マーケティング的な視点や裏づけも優れていることから佐藤氏を選んだといいます。確かに、ここに引用した氏のコメントを読むと、商品の名称を消費者に伝わりやすくしたことや、ロゴマークの「C」のアイコンがウイルスを食べているような形状をしていることなど、非常に分かりやすい説明だと感じます。
本リリースは(ポイント3)デザイン変更がメインテーマなので、製品情報は3~4枚目、ブランドや会社情報は5枚目というように、優先順位も明確にしています …