新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
企業の働き方改革が推進される中、アパレルメーカーのレナウンでユニークな取り組みが始まりました。子育て中で時短労働や休日を優先取得する販売員がいる店舗で、同僚の人たちに手当てが出る「ほほえみサポーター手当」という制度です。子育て中の社員に向けた制度は聞きますが、同僚に配慮する制度とは聞いたことがありません。今回はそのリリースについて取材してきました。
同社のスタッフ約4000人のうち、店舗で働くスタッフ約3000人は圧倒的に女性が多く、働き方について多数の要望が挙がっていました。そこで2016年に各部を網羅するスタッフが集まり「ダイバーシティ推進委員会」が発足。現在は26人が参加し、社内のコミュニケーションを活性化させる役割も果たしているといいます。
最近では、介護を経験した社員が仕事との両立について語るセミナーを実施し、非常に多くの社員が参加したそうです。
そうして働き方について検討していく中で、「子育てをする人も大変だけど、その人の分まで時間を調整して働く同僚も大変」「時短で働く人も、周りの人に対して心苦しい思いをしている」といった声から生まれたのが「ほほえみサポーター手当」です。「各店舗には3~4人しかおらず、1人が休むと大きな影響が出ます。それに子育て中は、土日や夕方に出られないことも多いので」と説明するのは広報・IR室の松下みなみさんです。
リリースには、ほかにも働き方に関する3つの制度が載っています。ひとつめは「ワークライフバランス休暇の導入」。年5日の特別休暇が取得でき、例えば老親に会いに行くときも利用できます。「遠方に住んでいると親に会いに行く機会も少なくなりますが、会って話をするだけでも認知症の予防になると言われています」と同室専門課長の円谷博明さんは言い、かなり手厚い制度といえます。
ふたつめは「テレワーク勤務の導入」。育児や介護など明確な理由がある場合に、週2日まで会社以外の場所で働ける制度です。本社スタッフは2時間くらいかけて通勤しても、1日のほとんどがデスクワークで終わってしまう日もあり、無駄な通勤時間を節約した方がいいと、もともと会社としても積極的に検討していたそうです。「特に当社のある有明地区は2020年の東京オリンピック時には通勤に支障をきたすと言われており、その準備もあります」と円谷さん。
最後は、年間の休日を115日から120日に増やし、1日の労働時間を7時間30分から7時間20分に減らすというもの。いずれも同社の期の始まりである3月1日に施行するため、2月19日にリリースを配信しています。
広報はダイバーシティ推進委員会発足当初から活動を追っており、「ほほえみサポーター手当」も前年末に「いよいよ始まるらしい」と聞いて、決まり次第リリースを作ろうと準備をしていました。そして1月23日に社長の決裁が下り、本格的に取りかかったそうです。
定石とは異なる手法もあり
ではそのリリースを見てみましょう。まず目につくのが、(ポイント1)本文が制度の背景や課題などを前面に押し出しているところです。私も企画理由は必ず書くよう指導しますが、どういう制度かをまず案内してから背景を説明するのが定石で、このリリースは異なる形式を採っています。メディアの立場になってよく考えてみると、理由のあとに結果がある方が腑に落ちやすく、記事も書きやすいので、この手もありだなと感じました。
(ポイント2)1枚目には企画概要を載せて全体像が把握できるようにし、いったん完結。2枚目以降で詳細を説明する方式は定石どおりです。
このリリースでは4つの制度を伝える中で、「ほほえみサポーター手当」に1ページ使い、残り3つで1ページというように(ポイント3)コンテンツに優先順位をつけています。
松下さんは最初、4つを同列に扱っていましたが、他社では見たことがない「ほほえみサポーター手当」を最優先した方がいいと判断し、全面的に書き直したといいます …