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新時代の企業ブランディング

老舗企業のリブランディング 最大の壁は社内での危機感共有

ヤマハ×カンロ

100年以上の歴史を持つヤマハ(静岡・浜松)とカンロ(東京・新宿)。時代の変化に伴って風化するブランドイメージに危機感を抱いていた2社で一からリブランディングを進めた2人が、プロジェクトの背景を語った。

カンロ
執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長
内山妙子(うちやま・たえこ)氏

武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業後、カンロ入社。デザイナーを経てマーケティング業務に従事。2012年、カンロ100周年事業として直営店「ヒトツブカンロ」の立ち上げに参加。

ヤマハ
ブランド戦略本部 マーケティング統括部 統括部長
大村寛子(おおむら・ひろこ)氏

1992年にヤマハ入社、長年電子楽器の商品企画・開発を担当した後、鍵盤楽器営業部長を経て現職。2016年、ヤマハで初となる"マーケティング"を名前に冠した全社部門を立ち上げ、ブランド価値向上に取り組む。

2018年7月、浜松市のヤマハ本社敷地内にオープンした企業ミュージアム「イノベーションロード」。

糖質制限ブームで危機感

─ヤマハとカンロはともに100年以上の歴史がある企業ですが、最近、リブランディングを進めています。それぞれの取り組みについて聞かせてください。

大村:ヤマハは商品が強いこともあり、どちらかというとプロダクトアウトの会社です。そのことに問題を感じていた私は、「マーケティングでもしっかりお客さまとつながることが大切」という考えがあり、2016年に"マーケティング"を冠した「マーケティング統括部」という全社部門を提案し、立ち上げました。

2018年4月には社長の中田卓也が本部長を兼務する「ブランド戦略本部」が生まれ、マーケティング統括部とデザイン研究所、コーポレート・コミュニケーション部がその傘下に入りました。現在は3つの部門が一体になって、ステークホルダーとの接点づくりを進めています。

ブランド戦略本部の仕事の柱は、「ヤマハの存在価値の明確化」「一貫性あるグローバル発信」「優れた顧客体験を創出」の3つ。例えば「存在価値の明確化」の取り組みとしては、2018年7月に浜松市の本社敷地内にオープンした企業ミュージアム「イノベーションロード」があります。創業以来130年間のヤマハの歴史を展示していて、一般向けにも公開しています。

また、「存在価値」を考えるという意味では、2016年4月に企業理念体系を再整理し、「ヤマハフィロソフィー」を制定しました(図1)。以前から掲げていた「感動を・ともに・創る」というコーポレートスローガンを中心に構成したものです。

図1 ヤマハフィロソフィー

中でも、「コーポレートスローガン」「企業理念」「顧客体験」の3つは、ヤマハの存在意義を表すフィロソフィーの"基軸"です。「品質指針」と「行動指針」は、企業理念を具現化するために、すべての従業員が日々の業務の中で拠り所とすべき指針です。これらがフィロソフィーの"両輪"になっています。ヤマハフィロソフィーの制定以降は、社内浸透を図るとともに、各部門でそれを実践してきました。

内山:カンロでは、2017年11月に過去40年間使用していたコーポレートアイデンティティ(CI)を変更しました(図2)。今回のCI変更の背景には、昨今、キャンディ市場でグミの需要が伸び続ける一方、飴の需要が下がり続けているという課題がありました。

図2 カンロのCI変更

カンロでは、需要減少の一要因に"糖質制限ブーム"があると考え、一般生活者を対象に「キャンディを食べるときに糖質量が気になりますか?」という意識調査をしました。その結果、糖質を気にしてキャンディを控えている方と、これから控えようとしている方が合わせて55%にも上ることが分かりました。これは予想以上の結果です。

飴を販売する会社として、「ブームの影響で飴離れが進めば、企業価値を創造し続けることができなくなるのではないか」という強い危機感が生まれ、CIの変更に踏み切りました。

まず策定したのが長期ビジョン。カンロは長年にわたって糖の研究をしてきた企業なので、"糖質制限ブーム"だからといって「糖」から逃げるわけにはいきません。そもそも、糖はヒトの身体にとって不可欠な栄養素です。お腹の調子を整えたり歯の健康を維持したりと、多くの可能性を秘めています。こういった理由で、糖質に向き合い、顧客のニーズや課題にソリューションを提案できる「糖と歩む企業」になることを、全体方針に掲げました。

そして、長期ビジョンは「カンロは、糖から未来をつくり、世界中の人を笑顔にするキャンディNo.1企業になる」に決定。これに合わせる形でコーポレートマークをキャンディのデザインにしました。マークには、コーポレートスローガン「糖から未来をつくる。」も入っています。

ヤマハは疲れた中年男性?

─時代の変化とともに消費者の意識も変遷してきたのですね。2社とも消費者へのブランド調査を行っていますが、その結果はブランド構築にどのように活かしていらっしゃいますか。

大村:ヤマハでは、コーポレート活動を「ストーリー」にして伝えているのですが、この取り組みを始めたきっかけがブランド調査でした。2016年の調査によると、消費者のヤマハに対するイメージは、10代から60代で一貫性がなく、バラバラだったのです。

例えば60代では「国際化が進んでいる」、50代では「先進性がある」、20代~30代は「社会に対して影響がある」「信頼性がある」などといった評価でした。印象に残ったのがフリー回答欄で、幅広い年代から「よく知らない」「無難な」「ださい」「特徴がない」「個性がない」といった意見が寄せられました。これを受け、「過去に培ったブランドアセットを消費しているだけなのでは」と課題が浮き彫りになったのです。

それが顕著になったのが、東京都内で高校生向けのワークショップを実施したとき。「"ヤマハさん"はどんなヒト?」と企業イメージを擬人化したイラストを描いてもらう企画で、とても印象的な作品がありました。それは、疲れた顔をした男性の絵で、コメント欄に「男性(50歳)/終電に乗り遅れて駅のベンチでうなだれている/独身で金は持っているがあまりプライベートは充実していない/慢性的な睡眠不足」などとありました。

ヤマハでは、これらの結果を踏まえて、特に「次世代顧客とのエンゲージメントが弱い」という課題の解決に向けて、コーポレートブランディングに力を入れるようになりました。

内山:カンロでも毎年、社内外でブランド調査を行っています。2016年11~12月の消費者調査では、「親しみやすい」「信頼できる」「製品がおいしい」という項目に対する賛同票が多数ある一方で、「センスがよい」「かっこいい」などの項目は落ち込んでいました。2011年に実施した社内調査の回答を見ても、"センス"に課題を感じていることは一目瞭然でした。

ただ、社員の回答では「製品の品質が高い」の賛同票がとびぬけて多く、「センスは悪くてもいいものをつくっている」という自負はあるようでした。我々はそこに光を見出し、100周年事業の「ヒトツブカンロ」を企画。2012年6月には、JR東京駅グランスタに初の直営店をオープンしました。

「ヒトツブカンロ」のコンセプトは"キャンディをギフトに"。「おいしいのにダサい」というイメージを払拭しようと、センスの高さにこだわったショップで、おいしい飴をかわいく包んでギフトにすることに挑戦をしました。

経営層からは「100周年の一過性の企画だろう」と思われていたのかもしれませんが、私は「ヒトツブカンロで新たな企業価値を創造する」と意気込んで立ち上げました。おかげさまで多くのお客さまに支持され、東京と大阪の2店舗に拡大することができました。

2012年6月にJR東京駅グランスタにオープンした「ヒトツブカンロ」はカンロ初の直営店。

トップの理解は欠かせない

─大村さんは「マーケティング統括部」の設立、内山さんは「ヒトツブカンロ」の企画と、お2人ともコーポレートブランディングに関するプロジェクトを一から立ち上げています。社内の理解を得るためには、壁もたくさんあったのではないでしょうか。

大村:会社として、ブランドの鮮度を保っていけるかという問題に気がついてもらえるかどうかが一番大きな壁ですよね。危機感がなければ会社は変わらないですし、新たなチャレンジから遠ざかってしまいがちです。

ヤマハでは、幸いにもブランド調査をする前から危機感がありました。社長も、楽器を習う子どもが減っている分、お客さま一人ひとりにしっかりと「ヤマハ」のブランドが刻み込まれる瞬間が必要だ、と考えていました。トップの理解があったことで、コーポレートブランディングを強化していくことに対しての大きなハードルはなかったように思います。

ただ、実行に移していく段階では、大きな壁がありました。いくら「ブランドは大事」と言っても、「じゃあ何から始めればいいの?」と、具体的なアイデアは誰にもない状況。こちらから提案をしてもなかなか理解を得られず、トライ&エラーの繰り返しでした。

内山:トップに理解があるとかなりスムーズですよね。

大村:トップの理解が根本にあったので、海外のエージェンシーの知恵を借りながらも、ボトムアップで社内の説得を進めることができました。

内山:カンロの場合、CIの変更時の全体方針「糖と歩む企業」はトップが決めましたが、コーポレートマークとコーポレートスローガンは社員らによるワークショップで決定しました。結果的にはトップと現場、双方の理解を得ることができ、一体感が生まれました。

顧客と直の接点を持つメリット

─ヤマハは企業ミュージアムや店舗、カンロは店舗「ヒトツブカンロ」などを通じて、お客さまとのダイレクトな接点を持っています。ブランド価値の変化を感じることはありますか。

内山:飴は、新商品であっても定番商品に並ぶ人気が出なければ、コンビニでは1カ月程度で棚落ちすることがあります。そのため、年間180アイテムほどの新商品を投入しなければいけない現状があります。しかし直営店があれば、売れ行きが良くない商品は見せ方を変えてみるなど、工夫の余地があります。また、お客さまの声を商品企画に反映できるのもメリットです。

店舗があることで認知度も上がり、採用面接でも「ヒトツブカンロの会社なのでエントリーしました」と言われる機会が増えました。当初は社内でも採算性を問うような声がありましたが、外からの評価を受けて空気が変わった印象があります。

大村:企業ミュージアムは社内外にヤマハの歴史を発信するうえで、非常に大きな役割を担っています。また、店舗では、楽器を通じてお客さまの感じていることが分かるので、「あっ、そこに喜んでいただけるんだ」と、気づきをたくさん与えてもらえるのは大きなメリットになっています。

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