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IRの学校

ファンダメンタル分析による企業価値の向上

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

休暇明けの広子は、休みの間に考えた中長期目標について話し出した。「ESG」「マテリアリティ」など最近のトレンドのワードを交えつつ、最終的にたどり着いたIR部としての目標とは。


広子東堂:こんばんは。

大森:こんばんは。おっ、広子さん、いい休暇だったかい?

広子:はい、ゆっくり充電させていただきました。

東堂:本当ですか?休み中、株価が大きく変動したこともあって、東京の動きが気になって仕方がなかったと聞きましたが。

広子:そう?東堂さんのところには、何もなかったでしょ?

東堂:その分、総務部や経営企画室なんかにメールで問い合わせがあったとか。

広子:あらっ、しばらく見ない間に、社内情報網を充実させたのね。

大森:まあ、東堂さんも努力しているんだものね。で、広子さん、考えはまとまったの?

広子:そうですねえ、いろいろ考えてみました。会社の方向性、個人的な目標、関わり方など、いろんな方向から。でも……。

大森:いや、いいんだよ。そもそもお休みだったんだから、まとまってなくて当たり前だよ。

広子:そうではなくて、笑わないでくださいね。ESGからSDGsやらマテリアリティやら、はたまた、働き方改革、健康経営などなど、最近の注目キーワードを眺めていたら頭が混乱して、一周してようやく言葉になった目標が「株価を上げる」だったんです。

東堂:えっ?

広子:シンプルでしょ。中長期的な目標が「株価を上げる」だなんて。「下手の考え休むに似たり」だな、なんて言わないでくださいよ。

大森:言わないさ。背景をもう少し聞きたいね。

ESG経営と投資家目線

広子:休み前に、CSRが活動の領域を示すのに対し、ESGはマネージメントの枠組みだから、「ESG経営が企業価値向上に有効だ」というお話をいただきましたよね。私なりに考えたのですが、やはりピンと来ないんです。ESG投資と言われても、当社にとっては機関投資家からの投資はウエイトが高くないから大した影響はないし、SDGsだと言われても、どこか遠い話で。中小企業に過ぎない当社が取り組むにも限界があるだろうと思ってしまって。

東堂:でも、会社の規模や業種に応じて整理を行っていけば、実効性も上がるんじゃないんですか。

広子:その言い方だと、CSRやESGに沿った活動を行うことが前提というか、目的になっていない?

東堂:たしかにそうですね……。

広子:自分たちなりのCSR活動やESGに関連した開示を行っても、投資家や株主の目線に合ってないと、独りよがりだったり、単なるエクスキューズになったりするじゃないですか。そこで、こうした活動や開示の目的を、投資家や株主と共有・共感できるものにする必要があると思ったんです。

大森:実は機関投資家サイドからも、「CSRやマテリアリティの開示に関して、環境・社会貢献的な面が強く、CSRの活動領域を示すに留まっている傾向がある。マテリアリティも投資家が求める"ビジネスモデルの持続性"に関するリスクと機会の課題整理となっていないケースが多い」と指摘されているようなんだ。

広子:私の整理は正しいんですね。

東堂:さすが広子先輩!でも、目標を企業価値の向上とするなら分かりますが、株価という表現だと少し違和感が……。

広子:まあそうなんだけど、企業価値って本来、業容・業績から導き出される絶対値だけど、株価は成長性や業界内の立ち位置、市場の変化への対応度合いなどの相対比較であったりするじゃない?

大森:そうそう、いいね。

広子:でも私たちにできることは企業価値向上への直接の寄与ではなくて、実態と評価が乖離しているところを、開示や対話で主張して株価評価を上げるということだと思ったので「株価」という表現を使ったんです。少し、虚業っぽいイメージかしら?

大森:企業価値に裏付けされたということだから、ファンダメンタル分析だね。

短期と長期両方の目線を

東堂:なるほど。逆に、企業価値の裏付けのない評価方法ってあるんですか?

大森:そうだねえ。株式チャートなどで株価の上昇下降のトレンドからその後を予測するテクニカル分析という手法もある。あとはアノマリーというのもある。

広子:アノマリーですか?

大森:株式市場に関する格言、言い回しって聞いたことがないかな?ことわざのような。

東堂:掉尾(とうび)の一振とか、選挙に売りなし、戌(いぬ)は笑う、とか聞いたことがあります。

大森:そうだね、年次や季節などで繰り返される経験則が多いかな。行動経済学などである程度説明できるものもあるようだけどね。こうした株価評価は、短期的な市場の値動きの予想には有効な面もあるから、ファンダメンタル分析と組み合わせるといいね。

広子:なるほど、では、私の目標は、ファンダメンタルな意味で「株価を上げる」活動を行うことです。

大森:いいコミットメントだね。じゃあ、具体的な方策もご教授願おうかね …

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