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IRの学校

社外取締役へのオリエンを建設的にするには?

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

広子たちの会社でも「社外取締役の増員」が実行され、新しい社外取締役が加わったようだ。社長からは新たな指令が下され、戸惑う広子であった。


広子東堂:こんばんは。

大森:こんばんは、広子さん。今年はリフレッシュ休暇取らないの?

広子:そうなんです。大森さん、聞いてくださいよ~、うちはブラック企業でした。

大森:おいおい、落ち着いて。

広子:社長が、「今年は社外取締役を入れ替えたから、休暇はあとにして新取締役にレクチャーしてくれ」と言うんです。

大森:別の時期に取っていいんでしょ?ブラックはちょっと言いすぎかな。

広子:分かってますよ。ちょっと愚痴ってみたかっただけです。

東堂:広子さん、社長からお願いされて本当は嬉しいみたいですよ。

大森:広子さんは社長の懐刀で、社外取締役へのオリエンテーションでは実績もあるもんね。

広子:それが、どうやら前回の取締役会が多少紛糾したみたいで、会社のルールや事業内容をオリエンテーションするだけでは足りないらしく……。社外取締役に期待する役割についても加えてほしいと。

大森:ええっ、一体どうしたの?

東堂:議案は、新規事業への参入の件らしいのです。とは言っても、当社にとっては新分野の商材ですが同業他社は既に手がけているところも多いですが……。顧客層・マーケットも同じなので顧客アプローチも流通網も流用できますし、いつもの新商品の発売程度の資料だったようなのです。

広子:それに対して、銀行出身で別の会社の社外取締役も兼務しているA取締役が「新規事業への参入にしては資料が足りないのではないか」と言い出し、「リスクが判断できない現時点では、社外取締役として責任が取れない」と。

大森:ほう、なるほど。

東堂:そこに、同じ業界のトップ企業出身者のB社外取締役が、「この業界をご存じかどうかは知らないが、リスクなんてないようなものだ。さっさと市場に出して結果を見て是正すれば十分」と参戦したようなのです。

大森:うーん。言葉尻が正確だとすると、なるべくしてなった感があるね。

広子:なるべくして、ですか?「社外取締役に期待すること」などと言われても、何をどう説明すればいいのか分からず……。それで今日は相談に来たんです。

対話で同じゴールを共有

大森:なるほど。そうすると、広子さんがやるべきことは「土俵づくり」と「価値観の調整」かな。

広子:土俵ですか?まさか、もっと戦わせろ、とでも。

大森:ははは、「土俵づくり」を、対話のルールや共通言語の調製、フレームワークなどと言い換えればピンとくるかな。

広子:対話のルールですか。なんとなく分かりますけど、「相手への尊敬を忘れずに」や「相手の意見を否定しない」とかではないですよね?

大森:それも必要だけど、コーポレートガバナンス・コードではなんて書いてあったっけ?

東堂:建設的な目的を持った対話、でしょうか。

広子:事業環境などへの深い理解にもとづく、というのもありましたね。

大森:いいねえ。社外取締役との対話も同様に、目的を共有した建設的なものがいいよね。

広子:なるほど、そのための説明ですね。

東堂:共有する目的は「企業価値の向上や持続的成長」でいいでしょうか。

大森:いいんじゃない?特に社外取締役だから、持続的な成長につながるか、常に先を見越した投資か、という観点を優先するように強調するといいね。

それから、育ってきた環境が異なると、同じ言葉でも微妙に違う場合があるんだ。例えば、今回のケースの「リスク」は、金融業界では、将来のリターンの不確実性であって、プラス方向もマイナス方向もあるよね。

広子:はい、ピンチはチャンス、ノーリスク・ノーリターンです。

大森:そう。でも製造業では長らく、リスクは危機と同意義で変動はマイナス方向に限られていたんだ。だから、A取締役の「判断できない」という懸念を、B取締役は「業界を知っていれば小さいことは分かる」と否定したんだね。

広子:なるほど。言葉の定義がしっかりしていれば、問題は発生しなかったかもしれないですね。

大森:ほかにも、「ほぼほぼ確定」とか「前広に検討」とか、企業によってニュアンスが異なったりする。

広子:なんですか、それ?

大森:まあ、意味は置いといて。今、何を検討しているのかを明確にする、というルールも必要かな。例えばさっきのケースでは、A取締役は「リスク評価の手順」の話をしているのに、B取締役は「リスクの数量」の話で返している。そもそも噛み合ってないよね。

議論・対話の「土俵づくり」と「価値観の調整」

オリエンで信頼感の獲得を

東堂:議長である、社長の議事進行方法・仕切りとしても検討した方がいいかもしれないですね。

大森:そうだね。そして最後に資料の標準化だ。

取締役会規程などで決議事項の内容は規定されていると思うけど、決議の検討事項などをまとめたフォームはあるかな?

広子:総務に聞かないと分かりませんね。

大森:りん議を含めてフォームを統一し、なるべく同じ項目を比較できるようにすると理解しやすいと思う。

東堂:なるほど……。理解はできるんですが、目上の経験豊かな方々にどういうトーンで説明すればいいんでしょうね。

大森:確かに、実際には広子さんたちから「取締役会における当社ルール」などと提示はできないだろうな。議長の司会進行を調整しつつ、社長から話してもらうのがいいかな …

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