広子たちは、今後の投資家との対話について長期プランを構想するため、近年のIT化、グローバル化にともなうIR環境の変化を確認している。ネット環境がもたらす投資家層の変化から、上場企業への要請の変化に話は進む。
広子:前回、ネット証券の台頭によって投資家の自己責任が実現するとおっしゃっていましたが、ネット証券の台頭と投資の自己責任って、どう結びつくんですか?
大森:だって、証券会社がいかに推奨しようとも、ネット注文だとクリックするのは投資者自身だよね。
広子:あはは、そりゃ自己責任ですね。
大森:そうだね。しかも、ネット証券は、いつでも売買できるよね。
広子:空き時間があればいつでも売買ができる、ということですよね。
大森:それが、値動きに敏感な個人投資家が増加する要因にもなっている。
広子:デイトレーダーとか、正直歓迎できない層も増えたってことですね。
大森:そうなんだけど、需要の急変時に値が付かないまま指値が一方的に動くよりは、値が付くだけマシだよね。
広子:それは分かりますけど。
大森:会社に注目する投資家が増えれば、値動きは安定すると思うよ。
東堂:でも、投資家区分別の株式保有比率の推移を見たことがあるのですが、個人投資家の比率はそれほど伸びてなかったような覚えがあります。
大森そうだね。投資金額ベースだとそう見えるけど、株主数でいうと大きく伸びている。
東堂:なるほど。株主数ですか。
広子:確かに、株主優待制度の充実なども個人投資家の増加が目的ですね。
大森:そう。一方で、ITの普及が一般の投資家にも投資情報源の多様化をもたらした。証券会社の外務員に頼らなくても、ネット検索やネットの掲示板で情報が得られるようになってきた。
東堂:なるほど。ITの普及以前には、掲示板もなかったんですからね。
大森:それとともに上場会社の株主担当部署やIR担当部署への問い合わせも増えた。「◯◯に書かれていることは本当ですか?」って。
広子:今でも多いですね、その手の問い合わせ。「ネットの掲示板を見たんですけど」なんて。仕方なく私たちも掲示板をチェックするようになりましたけど。
大森:そうだね、情報があふれるようになって、投資家には情報の真偽を見極めるリテラシーが求められているのも事実。逆に、上場会社側にも任意開示を含めて、きちんと事実を伝える義務が重くなってきたとも言えるね。
広子:情報があふれて逆にIRの大切さも増しているなんて面白いですね。
東堂:問い合わせへの回答も気を遣いますよね。非開示の情報だったりすると、否定も簡単にはしづらいですもの。
大森:そうそう。オフィシャルな情報開示の範囲は常に意識しないとね。ほかにも投資層の変化では、海外法人などの急増が著しい。金融機関、取引先などの持ち合いが、金融危機や金融改革を経て解消される中、崩れそうな需給を海外投資家と個人投資家が支えたとも言われているね。
広子:グローバル化は、コンプライアンスやガバナンスの強化のきっかけとなったとも聞きますね。
大森:そうだね、当時の日本式のガバナンスは外国の機関投資家からは異様に見えただろうね。
広子:ワンマン社長とイエスマンの取締役会が多かったという話でしたね。
東堂:競争のルールが変わらない前提なら通用する均質な組織体制も、ルールチェンジがあり得る現代では意思決定組織にも多様化が求められる、でしたっけ?社外取締役の役割で聞きました。
大森:そんなに上手くはまとめてなかったと思うけど、まあそうだね …