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実践!プレスリリース道場

そごう・西武、東大生が「母の日テスト」に挑む動画でパブリシティ増

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

「母の日」や「父の日」などのカレンダーイベントは、小売業にとって大切な商機です。今年、そごう・西武では、母の日に「自分の母親のことをどのくらい知っているか」を試験する「全国一斉母の日テスト」を開催し、話題を呼びました。このユニークな企画の舞台裏を取材してきました。

贈り物やギフト商品を多く扱う百貨店にとって、カレンダーイベントの重要性は言うまでもありません。けれどクリスマスやハロウィンなどが伸長しているのに対し、母の日は大きな変化がありません。

その理由を、百貨店事業部営業企画部広告・宣伝担当の吉元誠治さんは「フォーマルギフトの印象が強いからではないか」と推測します。バレンタインデーが義理チョコや友チョコ、自分へのご褒美チョコなどへと変化しながら拡大しているのに対し、母の日は昔からずっと変わらず、気軽に参加する人が少ない傾向にあるというのです。

しかし考えようによっては「母自身が自分にご褒美をあげる」「母を亡くした人は、好きだった物を食べるなどして母を偲ぶ」「品物をあげるだけでなく、母と一緒に何かを楽しむ」など、母の日の過ごし方はまだまだ広がる可能性があります。とにかく、母の日に「参加する」層を増やすことが大事だと考えました。

そこには吉元さん自身の反省もありました。広島在住の母にカープのチケットを贈り、喜ぶだろうと思っていたら、高齢のためトイレの心配の方が大きく、「母親のことをよく分かっていなかった」と感じたそうです。そこから自分が母親をどれだけ知っているかを試すテスト企画につながっていきました。

また、母の日についてアンケートを取ったところ、「形あるプレゼント以上に感謝の言葉などのコミュニケーションが嬉しい」との結果が出ており、「男性だと恥ずかしくて面と向かって言えないことも、テスト形式のメッセージカードなら書けるし、母親にとっては自分のことを考えてくれた時間自体が嬉しいだろうと考えました」。

実施方法は、(1)店頭でテスト付きのメッセージカードを配布(2)特設サイトにテストを掲載(3)朝日と毎日のこども新聞にテストを掲載(4)12店舗で親子参加型のテストを実施、の4パターン。4月24日からキャンペーンを始め、(1)は全国15店舗で10万部を配布。(4)は昔のテストのようにわら半紙に刷ったところがお洒落です。

(2)は制限時間30分で100問というボリュームのある内容。私が最も興味を持ったのが、この問題を現役東大生に解いてもらい、その動画をウェブ上で公開していたことです。ネットで見てもらうと分かりますが、尺が5分7秒ある、なかなかの感動大作です。

参加してくれる東大生を募集し、当日は38人が集まりました。画面からは和やかで自然な空気が伝わってきます。お昼に集まってテストを開始しますが、制限時間の30分では足りず15分延長。その後、母親に電話をかけて答え合わせのできる人が3分の1ほど残り、収録は夕方まで続いたといいます。

さて、ここからは広報の話。リリースは通常、キャンペーンの始まる1週間前までに配信しています。同社では企画がほぼまとまった段階で広報に案件がまわってくる体制で、社長室広報・CI担当の高田依子さんも3月中旬からこの案件に関わりました。

「東大生」というワードを活用

リリースを見てみましょう。まず、(ポイント1)「東大生でも意外と解けないテスト?!」というインパクトのあるタイトルでメディアの興味を喚起しています。これは企画のレクチャーを受けたとき、高田さん自身が一番印象に残った要素だったそうです。「母親に関するテスト」だけでも企画としては十分に面白いですが、東大生の企画が入っているのと、入っていないのを想像すると、「東大生」に圧倒的なパワーがあることが分かります。

(ポイント2)リードで「市場規模が縮小傾向にある」という問題をさりげなく提示しているのも上手なところです。こうした問題提示と、それを解決する型の企画はメディア好み …

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