新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
今月は、デパート催事の花形ともいえる「北海道物産展」のリリースを取り上げたいと思います。各デパートが横並びで催事を行う中、メディアで話題となり、お客さんに来てもらうにはどのような工夫が必要なのでしょうか?
1962年に開業した新宿の小田急百貨店では、すでに1969年から北海道の物産を集めた催事を始めていたといいます。現在は冬、初夏、秋と年に3回開かれるほか、町田店と藤沢店でも開催しているので、催事担当チームはほぼ一年中、情報収集をしていることになります。
冬に関していうと、開催前年の7月から現地へ足を運び、出店者および商品を選定していきます。広報担当者は、ラインアップが決定した11月に聞き取りをし、担当チームが推したいものと自分たちが面白いと思うものを調整していきます。
しかし、最終的に何をピックアップするかは広報に委ねられており、「世の中の関心事と接点があるものを選ぶように心がけています」と総務部広報担当サポートリーダーの野村真理さんは話します。
今回、リリースを紹介する物産展(2018年1月17日から25日まで)でいうと、海鮮がトップでないことに驚きがありますが、担当チームからは「限定メニューの『ローストビーフおにぎり』をプッシュしたい」という意向があってのこと。世の"肉食ブーム"とも合っているので一番の目玉としました。
広報サイドは季節感があって女子受けのするいちごを推したいと考え、「カマンベールといちごのパフェ」などインスタ映えするスイーツをもうひとつの目玉に選定。さらに、王道の海産も入れて3つの目玉としました。
配信は、まず前年12月にテレビや新聞などにファクスで、年明け1月に配信サイトを用いての2段階。担当者が付き合いのある記者に直接持ちかけるぶんも含めて約300社に配信しました。その結果、新聞掲載があったのと、ネットでの拡散効果により、会期5日目にして前年比110%というスタートを切ることができました。会期の後半は残念ながら大雪の影響を受けましたが、ほぼ販売目標を達成することができたそうです。
注目ポイントを第2のタイトルに
では、そのリリースを見ていきましょう。まず私が面白いなと思ったのは、(ポイント1)1枚目上段の3つの注目ポイントが枠で囲われていて、タイトルと同じくらい目立っていることです。これにより、両方が自然と目に入ってきて、ダブルでインパクトを与えています。ポイントを箇条書きにする欄は、案外、これくらい目立たせてもいいのかもしれません。
また、ここで使っている「フォトジェ肉」という言葉がユニークで、メディアやSNSなどでも好まれそうです。これは野村さんが、以前、目にしたのを覚えていて用いたもの。反響もよく、後続の藤沢店の催事では折り込み広告にもこのフレーズが採用されそうです。
(ポイント2)1枚目の中心部に据えた大型写真の役割も重要です。まさにインスタ映えのする写真で、この写真と「フォトジェ肉」というフレーズがあるだけで、細かい内容を読まなくても、読み手はどういう商品なのかを瞬時に把握できます。
もうひとつ、写真にナンバリングを施すのは実用的なテクニック。特に物産展のように点数が多くなる案件の場合は、写真にキャプションをつけて、さらに商品説明も書くとうるさくなるのでスマートに処理したいところです。
(ポイント3)3つの目玉商品はメディアが取り上げたくなる順に配置してあります。メディアとしては、定番の海鮮をプッシュされても、目新しさがないので取り上げにくいに違いなく、反対に今話題の肉メニューを推されたら飛びつきたくなるでしょう。今回はたまたま売りたい順と一致しましたが、一致しないことも往々にしてあります。リリースをつくるにあたっては、自分たちが売りたい順よりも、注目を集めそうな順を冷静に見極めることも大切です。
さて今回の北海道物産展には、若い世代の集客と物産展のイメージ改革という大きな目標が広報にありました …