新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
先日、山口県下関市にあるニッシンコーポレーションという企業の「プレミアムふぐカレー」という商品をプロデュースしました。ふぐはカレーソースとは別のパックにし、しっかりふぐを味わえる我ながら自信作。試食した市長から開口一番に言われたのが、「ふるさと納税の返礼品にしよう!」でした。地方自治体にとって、いい商品ができると真っ先に思い浮かぶほど、ふるさと納税が重要項目になっているのだと感じた出来事でした。
そのふるさと納税をここまで牽引してきたのが、今回取り上げるトラストバンクだといっても過言ではないでしょう。ふるさと納税制度がスタートしたのは2008年。同社は12年に設立され、「ふるさとチョイス」という全国の返礼品情報などをまとめた総合サイトをつくることで、世の中にふるさと納税の存在を浸透させました。
地方自治体に寄附をすれば、おいしい食材などを返礼品としてもらえる上、税金が控除されるため、利用している読者も多いのではないでしょうか。私の知り合いにも年間200万~300万円の寄附をする強者がいるほどです。
けれど近年は寄附金集め競争が過熱化し、地元とはまったく関係のない海外の電化製品などを返礼品にする自治体も現れているのは各種メディアで報じられている通り。ついには総務省から返礼品に関する通知も出ました。
寄附金の"使い道"を明確化
そうした中、トラストバンクが今年の4月に新たに開設したのが「ふるさと起業家支援プロジェクト」というサイトです。同社では、ふるさと納税に寄附した人が寄附金の使い道を選べる仕組みを「ガバメントクラウドファンディング(GCF)」と名づけて、2013年から提唱してきました。
ふるさと納税とはそもそも、地方で成長した人たちが納税者となる年齢には都市に出てしまっていて、税の格差が起こっているのを改善するためのものでした。返礼品をもらえる「お得感」ばかりが目立って、納めた税金の使い道にはあまり目が向けられない中、この方法なら自分たちが寄附した貴重なお金がどのように使われるか見届けることができるメリットがあります。
GCFを利用する事業は、2016年に66件だったのが翌年には100件を超えるなど、着実に増加してきています。これまでは自治体が主体でしたが、2017年秋には総務省が個人の起業を対象にした「ふるさと起業家支援プロジェクト」をスタートさせることを示唆。そのタイミングに合わせて、トラストバンクが専用サイトを開設したのです。
同社では2017年12月にプロジェクトを告知する第1弾のリリースを、18年3月にサイト開設と本格的なプロジェクト開始を告げる第2弾を配信しました。ここからは、そのリリースを見ながら話を進めましょう。
まず、(ポイント1)タイトルで社会的課題の解決策を提示し、メディアの目を引いています。実は私も、地域を活性化させるには、起業家を育成することが大事だという考えを以前から持っていて、地方自治体とまちおこし事業に取り組む際はいつも訴えています。
いくら地域の商品をつくり出してお客を呼び込んでも、それは一過性のものでしかありません。それより地域に事業を創出し、雇用を生み出すことが地域の発展には最重要だと思うからです。このタイトルは、そうした「起業家支援」や「地域貢献」といった重要なワードを盛り込んでいます。
次に、(ポイント2)リードの完成度が目につきます。わずか7行の中に、企画の5W1Hを盛り込んでいます。2017年末に配信されたリリースから進展した形で、鳥取県庁や愛知県碧南市で具体的に事業がスタートすることが書かれており、読み手の期待感を呼び起こします。また、総務省という官庁の関与を明示することで、プロジェクトに対する信頼性も獲得しています …