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実践!プレスリリース道場

地方企業が「核シェルター」輸入 全国から50人の記者が集結

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

2017年7月ごろ、とある広報関連の講座で受講生の方から「ある案件を見てもらえないか」とオファーをもらいました。私はレギュラー案件だけで手一杯なので、スポットのコンサルティングは受けないことにしています。しかし、少し話を聞いてみると大変興味深く、一級品のネタだったので、強引に時間を空けて引き受けることにしたのが、「核シェルター」をアメリカのメーカーから初輸入するという事案です。なかなか身近に接する機会がない商品ですし、北朝鮮のミサイルの脅威も高まっていた時期だったので、話題性も抜群だと感じました。

よく、「Jアラートが発令されたら、地下もしくは安全な建物に避難してください」といわれますが、具体的な場所は思いつかない人がほとんどではないでしょうか。私もこの案件に携わって初めて知ることが多かったのですが、スイスやイスラエルなどでは人口当たりのシェルター普及率が(公共施設に設置されているものも含めて)100%であるのに対し、日本では0.02%しかないそうです。平和ボケといわれる日本らしい話で、社会的にも意義のある案件だと感じました。

日本に初輸入される「Peace Room」という商品はアメリカ大手のシェルターメーカーが製造しているもので、実証実験で基準を満たしている安心感のある商品です。

声をかけてきたのは七呂(しちろ)建設の代表取締役・七呂恵介さんで、鹿児島の企業でありながら、わざわざ東京まで私の講座を聞きに来るほど勉強熱心な方です。ただPRに関しては、これまでリリースを配信したことがない初心者だったので、リリースの構成やメディアリストの作成法など、基礎からの指南が必要でした。

広報業務は社内で営業補佐だった野久保里奈さんが担当することになり、まずは情報を出す"Xデー"を定めることに。会社として見本のシェルターを1台輸入してモデルルームを設置する予定があったので、その公開日に向けて準備を進めていきました。

苦労したのはアメリカ本社がなかなか情報を出してくれないこと。商品が商品だけに軍事機密があるらしいのです。野久保さんは輸入代理店をせっついたり、本社のホームページを翻訳したりして情報を集めました。そうしてまとめたリリースを、私が5回以上添削を繰り返し、形を整えました。

特長を絞り、図説を活用

では、そのリリースを見ていきましょう。まずはいつものことですが、(ポイント1)タイトルにメディアが注目しそうなポイントを凝縮しました。

何より「核シェルター」に今日性や社会性がありますし、「アメリカ大手」には著名性や信頼性、「日本初導入」には新奇性があり、ニュースバリューの塊になっています。黒字に白抜き文字を使って目立たせるテクニックは、タイトル以外にも随所に使いました。

1枚目は商品の特長と導入の理由をまとめました。(ポイント2)多数の特長があふれていた中でも注目されそうな3点に絞り込み、優先順位の高い順に掲載。特長を3点に抑えても、核シェルターという特殊な商品を導入することにした理由が必要だと感じました。そこで七呂さんから話を聞くと、鹿児島という土地柄、噴火や原発の危険が身近にあるため防災への意識が高いことが分かり、掲載することで説得力が増しました。



2枚目にはさらに詳しい情報を。メーカーの資料には文字情報しかなく分かりづらかったので、(ポイント3)ポイントを図にまとめました。シェルターの普及率が国によって大きく異なり、日本は0.02%しかないという事実も、数字にインパクトがあるのでグラフで掲載しました。



3枚目は会社情報。メーカーはアメリカで大手とはいえ、日本人にはそのすごさが分からないため、情報が必要だと感じました。そして七呂建設自体、地元では知られていてもメディアにはまだ無名の存在です。何しろリリースを配信したことがないのですから。そこで歴史と実績を簡潔にまとめ、長く営業している信頼の置ける企業であることを伝えました。


配信は鹿児島県のほか、宮崎県、熊本県、福岡県の記者クラブへ。会社が以前、取材を受けたメディアの記者に直接配信したぶんや、私が東京のメディアに配信したぶんも含めて、延べ300通ほど …

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