新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
「PRのプロフェッショナルの領域はもはやメディア・リレーションズに留まらない。企業のコミュニケーションをすべて束ねるスペシャリストになるべきだ」。これが筆者の持論だ。企業とステークホルダーのすべてのコンタクトポイント、特に、インターナルやリクルーティングなどの人事系のコミュニケーション、CSRに関わるPRなどにおいて、PRのプロの知見は大いに重宝されるだろう。
中でもCSRについては、日本では上手にその活動を伝え、企業のレピュテーション向上に結び付けている事例はまだ、少ないように感じる。企業がSocial good(社会的善)、Social purpose(社会的目的)を果たし、利益追求だけではなく、社会的課題の解決に貢献するべきであるという考え方は欧米で強く支持されている。
「善意」が批判されるケースも
一方で、その活動について、多くのステークホルダーに知ってもらい、理解されることは日本同様に難しいのが実情だ。よくあるのが「サステナビリティ・レポート」の発行で、ある調査では、アメリカの優良企業500社のうち85%が定期的に作成していたが、これが実際に読まれ、話題になることはあまりない。
そうした中、サステナブル企業の代名詞となっているパタゴニアや、靴が一足売れるごとに一足を途上国に寄付することで知られるTOMSのように、メディアでの露出などを活用しながら、上手に社会でのプレゼンスを高めている企業もある。
パタゴニアは2017年12月、トランプ大統領がユタ州にある国指定保護地域の範囲を大幅に縮小すると発表したことに反対し、公式サイトのトップページやソーシャルメディア上で"大統領があなたの土地を盗んだ(The President Stole Your Land)"と発信して、その違法性を訴えた。SNS上でもパタゴニアへの共感は大きく広がり、売上の上昇にもつながった。
しかし、ここまで度胸を決められる企業はいいが、「善意」が誤解を招いて批判を浴びる企業も少なくはない。最近では、ペプシが平和や相互理解などを呼びかけようと、デモをモチーフに制作したCMが、商品を安易に売り込もうとしていると大きな非難を受けたことが記憶に新しい。
「ハーバード・ビジネス・レビュー」の記事によれば、こうしたネガティブな反応を招くのは3つの要因があるという。1つ目は企業が実現を目指すものと実際の行動との乖離、2つ目は訴えるメッセージが政治問題化すること、3つ目は企業の動機が誤解されることだ。アメリカでは最近、環境問題や人種問題への取り組みすら政治信条的対立に巻き込まれて、批判を受けることが増えており、企業も慎重になっているところがある。
好感を集めた最新の成功事例
難しさが増すCSRコミュニケーションの中でも、筆者の印象に残ったSocial goodコミュニケーションの最新の成功事例をいくつかご紹介したい。
(1)マイクロソフトアフリカ
1つ目はマイクロソフトのケースだ。きっかけは、アフリカのガーナの中学校でITを教える教師のFacebookへの書き込みだった …