新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
最近、トップ交代のニュースが相次いでいる。ちょうど新年度を迎えるタイミングでもあり、今回は、新たに企業変革をリードするエグゼクティブの戦略的コミュニケーションについて考えていきたい。
企業価値とコミュ力は比例
筆者は本誌2018年2月号で、今年のPRトレンドのひとつ目として「パーソナルブランディング」を掲げたが、今ほど、トップやエグゼクティブ個人のコミュニケーション・ブランディング戦略が重視される時代はないだろう。企業の顔となる彼らは「ブランドの体現者」であるとともに、企業と社内外のステークホルダーとのエンゲージメント(絆)づくりの主役でもある。
「トップやエグゼクティブのコミュ力は企業価値に比例する」。これは筆者の持論であるが、名経営者は必ず、コミュニケーションを大事にする。ただ、問題は、「以心伝心」信仰の強い日本では、「言わなくても分かる」「自分は十分、うまい」「自信がないので、人前ではあまり話したくない」という3つの思考パターンのエグゼクティブが非常に多いことだ。
この3つの考え方はどれも間違っている。きっちりと言語化し、伝える工夫をしなければ伝わらないし、自信を持っていたところで、伝わっていない場合がほとんど。そして、何より、コミュニケーションは才能より、努力と準備が大切であることがあまり理解されていない。エグゼクティブのコミュニケーションはもっと緻密なプランニングと戦略に基づいて行われるべきものなのだ。
トレーニングだけでは不十分
新しいトップには、とりあえずメディアトレーニングを受けてもらって終わり。そんな企業が多いのではないだろうか。そこで、海外のマネジメント理論に基づいたエグゼクティブコミュニケーションの新たな視点ととるべき方策をご紹介したい。
POINT 1
ソートリーダーシップ
「Thought leader」とは「特定の分野において卓越した知見を示し、そのテーマにおいての先達」となる人を指す。「働き方改革」「少子高齢化」「地方創生」といった日本の重要な社会問題についての解決策を提案し、人々の間に議論を引き起こすような活動の先頭に立つ。
自社のことだけではなく、マクロの視点で語り、世の中を動かす力と存在感を持ったエグゼクティブとしての素養を鍛えていくことも重要だろう。そのためには、それぞれのエグゼクティブがどの分野で一家言持つのか、どういった強みがあるのかを分析し、メッセージを丁寧に練り上げ、発信していくプロセスを経なければならない …