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IRの学校

ベスプラ指針で変わる企業の公表情報の領域とは?

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

2018年に入って最初のIR担当者の勉強会。広子たちは、日本IR協議会が2017年11月20日に公表した「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)」について話している。


広子:大森さん、今日もよろしくお願いします。

東堂:フェア・ディスクロージャー・ルール(FDルール)の施行が4月に迫り、金融庁もFDガイドラインを公表しましたよね。続いて日本IR協議会も「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)」(べスプラ指針)を打ち出したので、今日はそのあたりについて理解を深めたいと思っています。

大森:いい心がけだね。勉強会に先立って、ちょっと整理しておくね。

FDルールの導入が決まったとき、企業側からは自分たちが直接規制の対象になることへの懸念の声があがり、投資家やアナリストからは、企業側が過度に反応し重要情報の範囲について慎重になりすぎるあまり、情報開示や対話の後退につながるおそれがあると指摘されたよね。

広子:そうですね。「重要情報」の範囲は考え方としては理解できても、いざ具体的にとなると判断に迷う部分が残ります。

大森:今日は、重要情報の範囲を中心に勉強していこう。

公表情報の分類

大森:まず、ベスプラ指針では、上場企業が機関投資家やアナリストに伝達する情報を、(図1)のようにA、B、Cの3つの領域に分類している。A領域はすべての人々に開示するもの、C領域は機密情報など基本的に社外に開示しないものとしている。このC領域は、インサイダー規制のひとつの考え方である「公表予定の未公表情報」とは別として意識するといい。未公表のA領域が最も取り扱い注意というのは変わらない。

図1 上場企業が資本市場に発信・共有する情報の領域
出所/日本IR協議会「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)~フェア・ディスクロージャー・ルールを踏まえて~」(平成29年11月20日公表)より

そして問題はB領域だね。B領域は建設的な対話を含む投資家などとのコミュニケーションの過程で説明されるものとしているんだ。

東堂:えっ。それこそ選択的開示になってしまうんじゃないですか?

大森:そう。基本的にはAかCに分類するのが望ましい。Bの領域で未公表の重要な情報は法令違反になってしまうからね。

広子:それならなぜB領域を残すんですか?

大森:いい質問だね。B領域はアナリストを通じて解説・比較・評価が加わることで市場の効率化が図られ、企業価値の適切な評価にも貢献する情報と定義されているよね。すべてをA領域にして情報量が多くなりすぎても、投資者の投資判断に資するとは言えないからだと思うよ。

広子:なるほど。開示する情報量が多すぎると、一般投資家はかえって見てくれないかもしれませんね。

モザイク情報と重要情報

大森:そこで、B領域にはモザイク情報という考え方がある。断片的な情報で一つひとつの影響は少ないけど、ほかの情報と組み合わせると投資判断に影響を及ぼす可能性がある情報ってことだね。

広子:あはは。モザイクがかかっている情報じゃないからね、東堂さん。

東堂:やめてください、広子さん。

大森:どうしたの?

広子:東堂さんは、最初モザイク情報のことを「隠されている情報」と勘違いしたんだよね。

大森:はは、確かに日本でのモザイクのイメージは隠すためのものだね。でも、この場合のモザイクは「断片」という意味で、重要情報に該当しないので積極的に対話に使うべし、と整理されているんだ。

東堂:具体的にはB領域には何が入るのですか。

大森:事業別、製品別、地域別などのブレイクダウン情報、公表内容の補足解説や、評価の根拠・理由などの情報などが挙げられるかな。質問されれば答える情報、とも言えるね。

東堂:質問されれば答える情報、と言われると選択的な響きに聞こえませんか?

大森:質問するすべての人に同じように答えることが重要だよ。アナリストなどの専門家が一般投資家に比べて詳細な質問をしてくることは想定されるけど、重要情報でなければ差し支えないんだ。

広子:根拠や補足説明は、前に言われたので、整理するよう努めています。

大森:そうだね。留意点としては、A領域区分にセグメント情報など、ある程度モザイク情報の前提となる概要は含んでおくことだね。

東堂:ほかに留意点はありますか。

大森:そうだね、根拠や解説など、一般にモザイク情報と思われるものでも、A領域の公表時と実体経済の数値が大きく異なっている場合や決算期末に近づいて決算が確定されつつある場合などは重要情報とみなされる可能性がある、ということも念頭に置いた方がいい。

広子:期末近辺は対話を避けるのが無難ですね。

大森:A領域として開示してから対応するという方法もあるし、仮に機関投資家などとの対話で重要情報ではないかと指摘された場合でも、両者の対話で対応を決定すればいいことになっているから。具体的な境界線は、今後プラクティスを積み重ねていくことで充実していくんだろうね。

広子:ところで「ベストプラクティス」って何ですか?

大森:相変わらず、英語をそのままカタカナにした専門用語が多いよね。ベストプラクティスは、金融庁の金融行政方針でも使われているけど、「成功事例、良質な業務プロセス」という感じかな …

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