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IRの学校

IR担当者の危機管理と不祥事対応

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

前回に引き続き広子たちはこの1年のIR・広報活動を振り返る。ディスクロージャーの環境変化の話から、2017年の企業不祥事と危機管理に関する話題に。


東堂:なるほど。開示、ディスクロージャーの流れは、形式主義から実効主義に向かっているですね。

広子:横並び主義に甘んじていたことは反省しないといけないですね。新しい時代のディスクロージャーを目指して頑張ります!

大森:そうそう、出過ぎた杭になれ!なんてね。

広子:やっちゃいますよ。とはいえ、IRは会社を代表しての発言や資料になりますから、いろいろな事例を集めることは重要ですよね。

大森:そうだね。事例を集めてコピペではなく、ちゃんと「ゲンテン」と照らして自社の状況を正確に表現することも忘れずにね。

東堂:「ゲンテン」ですか?

広子:大森さんがよく使う言葉ですよね。物事が始まった点という意味の「原点」と根拠となる元々の文献の意味の「原典」でしたっけ?

大森:そうだね。ここでは、そういうルールが生まれた背景・理由とルールが書かれている文章、という意味だね。

東堂:なるほど。事例が生まれた理由やルールを理解して、自社の開示に活かせ、ってことですね。

大森:その通り。

「他山の石」で危機管理

広子:そういえば、2017年も企業の不祥事多かったですよね。

大森:大手自動車メーカーかな?そうだね、大手鉄鋼メーカーのデータ改ざんや、重電メーカーの不正会計から始まった不祥事の収束という動きもあったね。

広子:労働問題にもメスが入りましたね。ブラック企業の実名発表、なんていうのもIR担当としては怖いですよね。

東堂:そうですね、上場会社が万一リストアップされたら、株価への影響なんかもあって、反響が大きくなりますものね。

大森:そうだね、労働基準法以外でも、景品表示法や独占禁止法、下請法なんかは事業内容にかかわらずほとんどの会社に関わりのある法律だから、他社の不祥事対応は「他山の石」になるね。

東堂:なるほど、他山の石ですね。具体的にはどうすればいいんですか?

広子:あっ、そう言えば、「リスク管理は平時が大切」って教えてもらいながら、他社の危機対応事例を集めておくのを忘れていました。東堂さんにも引き継がなきゃ。

東堂:「平時」ですか?

大森:そうか、前にリスク対応とIRについて話したときは東堂さんはいなかったね。いい機会だから整理し直そうか。広子さん、ちょっと説明してみて。

状況によって異なる対応を

広子:まず、リスクが表面化した危機状態とそうでない平時に分けて、対応をまとめておくことが必要ということでしたよね。そして、緊急時も初期対応とその後の対応では根本的な姿勢が違う、と。

大森:そうだね、初期の「火消対応期」と「状況確定期」、「信頼回復期」と分類したよね。

広子:初期のIR担当者の仕事はステークホルダーへの謝罪と、そうした関係者からの声を社内へフィードバックすることだ、と覚えています。そして「信頼回復期」こそ、IR担当者の活躍場所だって。

大森:まあ、だいたいそうだね。

東堂:「状況確定期」というのはどういう段階ですか?

大森:「被害状況の把握」「原因究明」「被害拡散の防止」などの作業が並行して進められて、発生した「事実」を認定する。経営陣が影響の軽重を判断して、会社の事実として確定させるプロセスだから、確定期と整理してみたんだ。

それで、確定した事実に基づき、適時開示の必要性や、表現方法・伝達手段を判断して実際のIR・広報活動を行うのが、信頼回復期。

広子:事実を経営陣がどう位置付けて、どう対処する方針なのか、再発防止策を含めて説明することが重要ですよね。

大森:いいねえ。そして、以前にも増して、法務部や企画部、広報部など社内各部署との連携が必要になっているね。

東堂:フェア・ディスクロージャー・ルールもありますしね。公表内容、表現方法を統一する必要はありますね。

IR担当が管制塔になるべきですね、広子先輩。

広子:そうだね、頑張ろう。それにしても、これだけガバナンスが提唱されても不祥事は続くんですね。

大森:うーん、企業統治って意味でのガバナンスって意味では、ある意味浸透してきた証拠かもしれない。

東堂広子:えっ!?

大森:変な言い方だけど、2017年の重大ニュースの多くは間違いなく経営トップをはじめとする「組織ぐるみ」だよね。日本のガバナンス強化は組織的関与を追及された経営トップが「知らない」「個人ぐるみだ」と否定し、責任逃れに終始したことがひとつの発端だったと思う。

経営者は、不祥事への関与の有無ではなく、「知らない」時点でガバナンス不足として責任を負うという形で整備されていったのが、コーポレートガバナンス・コードだと。

逆に、組織ぐるみだから影響も大きくなると言えるし、ガバナンス強化のデメリットでもある株主至上、短期利益偏重が表面化したとも言えるんじゃないかな。本当は、長期的な視点の株主の尊重がメインになるべきなんだろうけど。

広子:なるほど……。これも流れが定着するまでの過渡期の弊害ですかね。

大森:そうだねえ。ルールをつくって、形式ではなく本質的に定着させるのは難しいからね。

ひとつだけ救いなのは、事象が発生してから発表されるまで時間があるから、準備期間も大いにあるってことかな? …

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