広子たちは今年最後の勉強会に参加するため、セミナールームにやってきた。年末の挨拶から、ディスクロージャーの環境変化にまつわる2017年の動きを振り返る会話が始まった。

広子・東堂:こんばんは。
大森:こんばんは、今日も元気そうだね。
東堂:今年は本当にお世話になりました。
大森:もうそんな時期かい?
広子:そうですよ、ちょっと早めですけど、この勉強会は、今日が本年最終の予定ですから。
大森:そうだったね。1年あっという間だなあ。
東堂:私にとって今年は、IR室の業務が本格化して、勉強しながら広子さんのスピードについていくという、厳しいけれど有意義な1年でした。
広子:振り返りがあると、本当に年末の挨拶みたいになりますね。
大森:よし、その流れでいこう。広子さんにとってはどんな1年だった?
広子:そうですねえ、個人的には相変わらず目の前の仕事をやっつける連続でしたが、東堂さんも頑張ってくれているので、周りを少し見渡せる余裕ができたかな、と思います。東堂さん、ありがとう。
東堂:いえいえ、こちらこそ。
大森:なるほど、余裕ができて、周りを見て何を考えたの?
株式市場の未来は?
広子:今年、ディスクロージャーの環境が結構変わりましたよね。それでつくづく感じたのは、ダブルスタンダードというか方針がぶれているというか……株式市場はどこを目指しているんだろうか、ってことです。
大森:どこの部分でそう思ったんだい?
広子:一番はフェア・ディスクロージャー(FD)・ルールですね。
東堂:コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードが設定されて、発行体と機関投資家の対話が推奨された矢先のことですものね。
広子:対話を推奨しつつ、一方で対話を抑制せざるを得ないようにルールを策定する、という当局の姿勢は理解できませんでしたね。
東堂:FDルールは、情報の提供先がポイントというのは分かりやすいものの、アナリストヒアリングで実際にどう対処すればいいかはまだ恐る恐るですよね。
大森:なるほど。まだまだ実例というか、経験の積み上げが必要だね。
広子:「重要情報」といわゆる「モザイク情報」の線引きが明確になっていないのが、やはり怖いです。裁量の部分が幅広いように感じます。
大森:そうだね。事業内容やビジネス環境、相手の理解度によっても、重要情報とモザイク情報の線引きは微妙だろうからね。
東堂:この勉強会で、発表済みの情報の正確な把握をするべき、という基本の取り組みは理解できたので、進めてはいますが。
大森:いいね。線引きを意識するより、根拠などの関連情報といった整理を進めることが肝要かもね。
決算短信の簡素化
広子:そうですね。それから、決算短信の簡素化ですかね。これも、通達通りに簡素化した会社が批判されて、次回から元に戻す、という対応を迫られていたり。
東堂:えっ。そこはブレではなく、簡素化を打ち出した取引所と、投資家目線の差から生まれたものでしょうから。
広子:そうなんだけど、取引所は市場の真ん中の公正な機関として、発行体と投資家にとって適当だろうと思って打ち出した施策だろうに、と考えるとねえ。ルール通りと思って行動して批判されるなんて。
大森:IR担当者が、そう思うのもしょうがないかなあ。
東堂:ところで、大森さんはディスクロージャーの環境の変化については、どうお考えなんですか?
広子:そうそう、今日は私たちばかりしゃべっている感じですよね。
大森:そうきたか。今年は確かに、ディスクロージャーの環境の変化が著しいと感じているよ。
広子:ですよね。
大森:そうなんだけど、この環境変化が迷走しているとは思わない。むしろ大きな改革に一貫して対処している、と感じるけどね。
広子:ええっ、そうですか?
大森:FDルールの導入は、公正で公平な投資環境を提供するという大原則に即すと、根底にあるべきルールだよね。対話するにあたって、開示していない情報がもとになるのは、やはりおかしい。
広子:そう言われるとそうですね。では、どこが変わったと思いますか?
大森:前に話したかもしれないけれど、日本ではひな形が用意されていて、しかも他社事例を大いに参考にして資料がつくられることが多いんだ。社名を隠すとどこの企業か分からないなんて、笑えない話があるって。
広子:「様式に合致すればいい」と消極的になっている、という話ですよね。
大森:そうだね。ただ、そこを改善しようと形式主義を実効主義に改革しようという意思を感じる。
広子:なるほど。でも、どうしてですか?
大森:両コードの2つのアプローチ手法からかな。具体的な例示+バスケット条項というこれまでの形態を変えて、原則主義にすることで、自律することを要求し、Comply or Explainで、ある程度の自由と説明責任の全うを促している。
決算短信の簡素化だって、正式には「決算短信・四半期決算短信の様式に関する自由度の向上のための有価証券上場規程の一部改正」といって自由度の向上をうたっている。要は、同じ実効主義への流れだと感じているということだね ...