業界ごとに存在する数多くの専門メディア。広報担当者にとっては、メディア対応の登龍門となることも多いでしょう。その編集方針やヒット企画、注力テーマを聞き、関係構築のヒントを探ります。
『建築知識』は建築業関連従事者に専門知識を伝える実務誌だ。しかし本年1月号では盛り上がる猫ブームを捉え、「猫のための家づくり」を特集したところ売り切れ店が続出。ネットでプレミアがつくほどの人気を呼んだ。「対象はあくまで建築家でしたが予想を超える反響。猫を飼う一般女性も多く購入されたようです」と編集長の三輪浩之氏は振り返る。
近年、室内の飼育が推奨される傾向を反映し、猫が安心して過ごせるバルコニー・テラス造りの提案から、自由に遊ばせるキャットステップの素材の選び方まで伝える。コンセント差込口を高くして猫の尿を避ける提案や「ステップの間隔は直径300ミリの円が内接する程度が望ましい」など建築誌ならではの細かいデータが満載だ。猫と暮らす家の設計依頼を受ける建築家にも飼い主にも有益な情報が載るからこそ人気を呼んだのだろう。
好評を受け、現在は「犬と暮らす家」特集(10月売り)を進めている。「犬の場合、汚れのつきにくい仕上げ材、犬にとって歩行感のよい床材はもちろんのこと、ウエアや首輪、ケージからドッグフード、ペットショップまで取材範囲は広がります」と三輪氏は明かす。施主だけでなく建築家が飼い主となる場合も想定すると購買力の高い読者がイメージされる。関連商品を扱う広報担当者には情報提供のチャンスがあるかもしれない。
このほか建築関連商品を紹介するコーナー「NEW PRODUCTS REVIEW」もある。「建材は建物内の使用シーンがイメージできるビジュアル素材があると使いやすい」と三輪氏。実際の記事を見ると軒天井材を紹介する際は背景に空の画像が写り、使われ方が具体的に伝わる。バルコニー緑化床材なら周囲の植栽、バスマットはそれを踏む人の足も入れた素材を用意するなど、商品情報を提供するにあたっては一工夫できそうだ。
商品の扱い方をめぐり、時に編集部と企業の広報担当者の間でせめぎあいも起こるという。例えば建築家は外部サッシを内部開口部に使うなど、メーカーが本来想定していない使用法を提案することもある。
このケースは問題なく掲載されたが、写真貸し出しなどを断られることもあるそうだ。安全性や耐久性に最も配慮しなければならないメーカー側の広報担当者にとっては頭を悩ませるところだが、「読者にとって役立つ、実務の情報にこだわる雑誌側のスタンスにもぜひ理解を」と三輪氏は言う ...