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広報担当者のためのマーケティング発想入門

「挑戦的な商品こそPRで売る」キングジムが明かす、開発と広報の連携体制

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「マーケティング発想のPR」を実践している企業のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回はキングジムの広報室を訪問、口コミが生まれるユニークな商品開発の裏側に迫りました。

(左から)
キングジム 広報室長 杉崎 誠氏
東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業 片岡 英彦(筆者)

領域別の広報担当者は置かない

片岡:キングジムといえばファイル製品、ラベルライター「テプラ」、テキスト入力に特化したデジタルメモ「ポメラ」で知られていますが単なる文房具メーカーではないのだろう、と以前から感じていました。今日は、そんな独特の地位を築いている御社の商品戦略とPR戦略についてお伺いしたいと思います。そもそも、社員の方々は(キングジムを)どんな会社と捉えているのでしょうか。

杉崎:広いジャンルでは文房具メーカーですが、どちらかといえば事務用品に強い企業というイメージですね。最近は新たな領域の商品も開発していますが、根底にあるのは「事務用品」だと思います。

片岡:1988年に発売した「テプラ」以降、アナログ製品からデジタル寄りのイメージになっていきましたね。

杉崎:そうです。「テプラ」の誕生によって、アナログ製品だけの会社から一段レベルアップしたことは間違いないと思います。社員自身も、デジタル製品を開発して売っていくんだと強く認識するきっかけにもなりました。

片岡:そして「ポメラ」は2008年に発売、と。実は僕、「ポメラ」を愛用しているんです。今回の対談原稿も「ポメラ」で書くことになると思います(笑)。ところでユーザーとしても気になっているのですが、「デジタル製品を開発・営業する社員」「アナログ製品を開発・営業する社員」とで志向が異なる、ということはないのでしょうか。

杉崎:電子製品やファイルを「売る」「つくる」という人の境目はあまりないですね。電子文具を担当している社員がファイルの新製品を開発することもありますし、ファイルの担当者がデジタル寄りの製品をつくることもあります。営業も同様で、「デジタル製品専門」「アナログ製品専門」という区分はなく、全員がすべての製品を売っています。

商品開発も社内に電子製品の基礎研究をしている者がいるわけではなく、すべては「こんなアイテムがあったら便利だな」という発想から商品が生まれていきます。その結果、生まれたのがファイルか電子製品かという違いだけで、出発点は同じなんです。

片岡:企画やアイデアがすべての起点になっているということですね。それを受け、広報室ではどのような体制、方針でPR活動を進めているのでしょうか。

杉崎:広報室には7人のメンバーがいますが、特に商品や分野ごとに担当は決めていません。案件にかかわらず、すべて全員が対応するというやり方をしています。年間で約25~30点ほどの新商品を発表しているので「ある程度のことは何を聞かれても対応できる」状況にしておいた方が、効率がいいと考えています。

売れている商品より「変わった商品」

片岡:PR活動全般のなかで、いま最も注力している領域は。

杉崎:結果として多くメディアで取り上げられているのは、一番売れている商品よりも「ちょっと変わった電子文具」ですね。すると「キングジムは面白い、変わった会社だね」という認識が広まって、「次にどんな商品を出してくるんだろう?」というユーザーの期待が広がっていきます。その効果は事業全体への影響を考えると非常に重要で、売上と広報活動の力点は必ずしも比例する必要はないと考えています。

伸び盛りの商品をもっと伸ばすということも必要ですが、キングジムという会社の商品開発の着眼点や姿勢をどう伝えていくかが重要と考えています。

片岡:確かに話題になる商品は、どれもユニークですね。例えば災害時に使えるオフィス用品として「着る布団&エアーマット」という寝袋のような商品を発売した例(2014年)は面白いと思いました。着たままでも歩けて、帰宅困難時にオフィスで寝泊まりもできる。しかもキングジムのファイルと同じサイズ感で、オフィスの棚にファイルと一緒に収納できる……というのも小技が利いているなと。

こういう商品は開発担当者が相当思い入れを持っていないと、商品化は難しいですよね。また、発売に踏み切るには思い切った経営判断も必要です。商品化にあたり、社内でOK・NGを出す判断基準などはあるのでしょうか。

杉崎:それほど厳しい縛りはありません。「着る布団」も開発した社員の親族が宮城で被災し、本人も過去に仙台営業所に勤めていた経験があったことが始まりでした。東日本大震災では東京のオフィスでも多くの社員が帰宅困難者になり、「社内で寝泊まりする際に快適に過ごせるアイテムがあれば」という共通体験があった点も後押ししました。

片岡:企画者自身の体験や思い入れを大事にしている、ということですね。

杉崎:はい。ただ、もちろん最終的に開発会議にかける段階では企画自体の新奇性、実際に一定の販売が見込めるのか、流通チャネルを確保できるかという点は考えています。

片岡:「需要は必ず日本中、世界中のどこかにある!」という、完全なニッチ市場を狙った商品が多く生まれている背景がよく分かりました。

杉崎:ニッチ商品が多いからこそ、「PRで売る」という発想がとても重要です。文房具店という強力な販路はもちろんありますが、今出している新商品の半分は既存の文具用品の枠組みを飛び越えている。つまり発売と同時に、自動的に扱ってもらうことはできません。

デジタル製品もスムーズに家電量販店に置いてもらえるかというと、決して多くはないです。そうなると、PRによって様々なメディアに取り上げていただいて、商品の存在を知ってもらうというプロセスが重要になります。

2014年に発売した「着る布団&エアーマット」は東日本大震災発生時のオフィスでの待機や帰宅困難の経験をきっかけに開発された。

1セット4500円(税別)で、A4ファイルサイズのボックスに収納できる点がキングジムらしい仕掛け。

安定商品があるから挑戦できる

片岡:開発の話に戻ります。4月には女性向けの新しい文房具ブランド「HITOTOKI」を投入していますね ...

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