「言いたいことを言う場」としてSNSを捉えてしまうと、ポテンシャルを十分に活かすことはできない。では、企業はSNSをどのように活用すべきなのか。SNSを取り巻く環境の構造的な変化や、企業が販促を行う上でのポイントについて、スパイスボックスの大月均氏が解説する。
図1は「生活者の1日のメディア接触時間」の内訳を色分けしたものです。上のグラフは、左から順に「(青系が)テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、(赤系が)PC、タブレット、スマートフォン」を示しています。いわゆる4マスとデジタルがおおよそ半数で拮抗しています。下のグラフは、それら7つをさらにアプリなどの単位に分けた場合のイメージです。マスメディアの方も、TVerやRadiko、紙媒体のデジタル版などの利用が広がりいくらか細かくなっていますが、デジタルメディアは細分化や断片化の傾向が顕著です。
今号のテーマであるSNSを例にとってみましょう。1日に何度かTwitterやFacebookのフィードをざざっと確認し、気になったコンテンツが表示されればリンクをクリックして外部サイトへ見にいくことも。あるいは、LINEで友人と次に会う予定のやりとりをしながら、飲食店の情報はInstagramでハッシュタグ検索をかけ、めぼしいお店が見つかったらその投稿をスクショに撮ってLINEに添付する。⋯⋯こうした行動が実際に行われています。
近年のインターネット利用人口は1億人弱ですが、主要なSNS利用者数も8000万人超に上ると推計されています。これはつまり、相当なシニアと子ども以外のほぼ全員が何らかのSNSを利用していることを意味しています。
スマホの普及や通信環境の整備、企業や自治体によるSNS活用の一般化など、様々な要因が積み重なって、生活者とメディアの関係は大きな変化が生じています。注目すべきは、その主導権が企業やメディアから生活者の側に移行しているという点です。キーワードは「主体化と分散化」と言えますが、企業がこの不可逆的な変化に対応するためには、まずはその構造を適切に理解する必要があります。
広告xSNSの現在地点
そこでまずは、デジタル上での情報接触について、もう少し詳しくみていきましょう。インターネットの誕生以来、企業と生活者の接点は主に広告と検索によって育まれてきました。しかし、PCからスマホへシフトするにつれ、広告枠に表示される従来型の広告はユーザーのデジタル体験を妨げてしまうことも多く、広告ブロックアプリは有料アプリの中でも常に最上位にランクインする状況が続いています。
加えて、ユーザーの行動履歴などのデータに基づいた広告配信や過度な訴求は、プライバシーやコンプライアンスの観点から世界的にも問題となっています。
企業のマーケティングコミュニケーション従事者は、これら一連の「広告うざい」的な事象にも真摯に向き合う必要があります。
また、SNSの利活用が広がった2010年代以降では、広告や検索だけでなく、自身の興味関心(インタレストグラフ)や友人知人のつながり(ソーシャルグラフ)による偶発的な情報接触が急増しています。生活者が常時オンライン化し個人のメディア化が進んだことで、情報の量のみならず、その幅、視点や表現も広がっています。SNSを提供する主要なプラットフォーマーが社会に及ぼす影響力も年々高まっており、世界的にも様々な問題提起や具体的な対策などが講じられています。
一方で、情報や人とのセレンディピティ的な出逢いやコミュニティ的なつながりこそが、まさにSNSが私たちの日常にもたらした新たな価値であり、醍醐味の一つとも言えます。
では、このような環境に対して、企業はどのように振る舞うべきなのでしょうか。まず、忘れてしまいがちなこととして、SNS上では企業も個人も同じ1アカウント、対等な存在であるということです。さらに、各ユーザーのフィードはそれぞれのユーザーの興味関心を学習して調整されていくため、企業都合の一方的な情報はますます届きにくい状況になっています。そこで鍵を握るのは「エンゲージメント・コミュニケーション」という考え方です。
情報流通の決め手はシェア
エンゲージメント・コミュニケーションについて簡単に説明します。ここまで述べてきたように、企業と生活者の接点は、広告や検索がその多くを担ってきました。しかし、スマホシフトとSNSのインフラ化に伴い、メディア環境は大きく変容しています。溢れかえる情報の中で、つい反応したくなったり誰かに伝えたくなったりするような要素がない情報は、もはや見向きもされません。つまり、「リーチ」や「サーチ」以上に、生活者に語ってもらうこと、「シェア」してもらうことの重要性が高まっているのです。
SNS上では、投稿に対して生じるいいねやコメント、リツイート、クリックなどといったアクションを「エンゲージメント」と総称することから、これからの企業に求められる本質的なコミュニケーションのあり方をエンゲージメント・コミュニケーションと呼んでいます。
SNSで顕在化しているエンゲージメントには様々なものが混在しており、いわゆるバズや炎上もその一角ではありますが、近年の傾向として、社会的に関心が寄せられているテーマに関連したオピニオンやアクションと、それに対する支持や共感、あるいは異論反論などが大きなボリュームを占めています。
例えば、ジェンダーや働き方、ライフスタイルなどのイシューがわかりやすい例でしょう。他方、かなりニッチでディープなトピックスであっても、熱量の高いユーザーによるなんらかの発信や反応が確認できるケースが多いです。これは、SNSが社会の隅々まで浸透し、同時に、プラットフォームごとに絶妙に棲み分けられていることと深く関係しています。
図2はエンゲージメント・コミュニケーションを設計する上での...