英国と日本には共通点がある。島国で、人口密度が高い。かたや武士道、かたや騎士道。象徴君主を置き、お茶が好き。全く異なる点もあるが、英国のいまは、ヒントになるだろう。現地からのレポートをお送りする。
「ロンドンにオリンピックを招致したのは、3週間スポーツ観戦をするためじゃない。イースト・エンドの再開発に必要な巨額の予算を政府から引き出す方法が、これしかなかったからだ。これであの地区の汚染された土壌を洗浄し、インフラを整え、住宅を建てることができる」──2008年、当時のロンドン市長、ケン・リビングストン氏は、オリンピック招致の理由についてこう答えた。
当初、ロンドン五輪開催への多額の税金の投入や、すでに20世紀に二度、同市で行われたオリンピックを再び主催することについて、疑問視する声も多かった。
しかし、開会式で即位60周年を迎えた女王がヘリから飛び降り、会場に降り立つという驚きの演出を見せると、多くの英国人が愛国心を奮い立たせた。そして2012年9月、五輪が幕を閉じると、新聞各紙は“栄光の夏”“ゴールデンサマー”と称賛。不況による限られた予算、人員で、施設を工期内に建設し(英国では稀なことである)、大会を成功に導いた関係者らに賛辞を贈った。
オリンピックから7年が経過し、EU離脱を巡って国が2つに割れたと言われる今年の英国でも、オリンピックはニュースに登場するテーマだ。大会会場だったロンドン・ストラトフォード地区で現在も続く、“オリンピックの未来への遺産”、つまり「レガシー」都市開発の進捗が話題なのだ。
冒頭の前市長の言葉が指すとおり、ストラトフォードは元々荒れた土地で、ロンドンの東の、歴史的に貧しいイースト・エンドと呼ばれるエリアにある。重工業や化学工業施設が多かったために土壌が汚染され、粗大ゴミが無数に堆積し、ロンドンで最も治安の悪い場所の一つとされていた …