Pandoraはリスナーの音楽DNAに沿って曲を流してくれるから、初めて聴く曲も楽しい。セレンディピティである。
一つ質問。
最近、書店で本を購入しています? 僕は──めっきり減った。アマゾンのせいだ。SNSなどで面白そうな本を見つけると、その場でアマゾンにアクセスしてポチっとする。気が付けば、書店からすっかり足が遠のいている。
そのせいで一つ困ることがある。最近、売れている本、話題の本しか読まなくなったことだ。前は週に一度は書店を訪れ、小一時間ほどぶらぶらして、タイトルや装丁に惹かれて本を購入したもの。意外な掘り出し物やフィーリングの合う作家に出会えたりと、刺激的な体験だった。
そう──セレンディピティだ。幸運をつかみ取る能力。書店だとそれができたが、アマゾンだと関連商品には出会えても、セレンディピティに導かれて新しい本と出会える機会は少ない。
一旦、話を変える。日本にはない、アメリカ独自のインターネットラジオに「Pandora(パンドラ)」がある。音楽業界におけるシェアは2012年のアメリカの音楽メディアの総聴取時間で、地上波ラジオ最大手のCBSを抑えて堂々の1位。同じネットサービスと比べても、MTVの5倍、YouTubeの公式MVの23倍である。なぜ、これほど強いのか。
そのサービス、要はリスナー個人のためだけにおすすめ曲をかけてくれる魔法のラジオ局である。次から次に、その人が好みそうな音楽だけを流してくれる。
そのからくりは、Pandoraのデータベースにある80万曲は、常時100人以上のプロのミュージシャンによって、1曲につき2000以上の判断基準(テンポ、コード進行、リズムパターン、楽器編成、録音形式、声の質、歌詞、アレンジ、etc)でDNA解析され、そのビッグデータをもとにリコメンデーションエンジンが組まれているから。つまり、初めて聴く曲でも、リスナーの音楽DNA的に合う曲を流してくれるので、本人は聴いていて気持ちがいい。そう──まさにセレンディピティな曲との出会いである。
人間、世の中ではやっているものや、他人が勧めてくれるものだけに乗っかる人生は退屈である。やはり、自分の趣味や嗜好(しこう)の延長に、セレンディピティな出会いが欲しい。
Pandoraはそれを「音楽のDNA解析」という手段でユーザーに提供するのに成功したが、一つ、あなたの会社でも顧客にセレンディピティを提供できる方法を考えたらどうだろう。
草場 滋(くさば・しげる)メディアプランナー。エンタテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組「逃走中」を企画。著書に「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)、「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)、「テレビは余命7年」(大和書房)ほか。 |
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