ベースの味は守りつつ、常に客の舌の一歩上を行く味を求めて改良を続ける姿勢が客を呼ぶ。「春木屋理論」である。
今年、ハウスのバーモントカレーが発売から50年を迎える。それについて、日本経済新聞の電子版で紹介された記事が興味深かった。
現在、同商品のカレールー市場でのシェアは30%と断トツのトップ。強さの秘密は1963年の登場以来、幾度となく重ねられた"小さな改良"にあるという。
バーモントカレーの登場前、カレーは大人の食べものだった。ハウスはそれを子どもも食べられるよう、リンゴとハチミツで辛さを抑え、初の家族向けの"甘いカレー"として売り出したところ、大ヒット。以来、ロングセラーとなっている。
驚いたのは、この50年間、味が変わっていないようで、微妙に改良を続けていること。コクを高めたり、色を濃くしたり──その理由を同社の開発担当者はこう解説する。「ロングセラーブランドはヘビーユーザーがいて成り立つ。味を大きく変えると、ヘビーユーザーさんから『この味が好きだったのに』と不満が出かねない。時代に応じて少しずつ味覚の志向に合わせて変えてきた」
この解説を聞いて、僕はラーメン業界で語り継がれる「春木屋理論」を思い出した。それは、荻窪の老舗のラーメン店の春木屋の伝統の味について考察したもの。同店は1948年の創業以来、看板メニューの中華そばの味を守り続け、その秘伝のしょうゆ味のスープには、数十年来のファンも少なくないという。
だが、実は全く味を変えないのではなく、少しずつ改良しているそう。なぜなら、時代を経て食糧事情がよくなったり、お客の舌が肥えたりする中で同じものを出していたら、味が落ちたと言われる。ベースの味は守りつつ、常に客の舌の一歩上を行く改良を続ける姿勢こそが「変わらない」と言われる秘訣だとか。前述のバーモントカレーと同じである。
そう、僕らは一見、変わらないものに惹かれる。何年、何十年経っても変わらない魅力。でも、その裏では、時代時代の人々の志向に合わせて、小さな改良が続けられているのだ。
そう言えば、同じくロングセラー商品として名高い日清食品の「チキンラーメン」も、1958年の登場以来、表向き味を変えないとしながら、小さな改良を続けていると聞いたことがある。だから、これだけ世の中に多様なライバル商品が登場しても、今なおファンが多い。
老舗を守る姿勢と、小さな改良を続ける姿勢。二つは同じ意味なのだ。
草場 滋(くさば・しげる)メディアプランナー。エンタテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組「逃走中」を企画。著書に「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)、「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)、「テレビは余命7年」(大和書房)ほか。 |
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