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グッドデザイン賞 2021レポート

社会の「希求」を察して迅速に開発 概念だけでなく「交動」で実装へ

審査委員長 安次富隆 × 審査副委員長 齋藤精一

2021年度のグッドデザイン賞は、国内外から過去最多の5835件の応募があった。前年に引き続き審査委員長を務める安次富隆さんと、審査副委員長の齋藤精一さんが、本年度の審査について総括する。

オリィ研究所「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」「分身ロボット OriHime」が大賞を受賞した。

今の社会を言い表した「希求と交動」

──2021年は社会全体、そしてデザインにとってどのような1年でしたか。

安次富:非日常だった新型コロナ禍の生活が日常となり、日本ではマスクをして生活することが当たり前になりました。オンラインでのコミュニケーションも日常化し、物理的な距離感がなくなった。その便利さもわかってきました。健康面では、感染したら人に会えなくなるため、人の命について今まで以上に意識するようになったと思います。

齋藤:そうした状況に伴い、応募作品にも変化がありましたね。2021年度の特徴は、こういう社会になるべきだという「希求」的な発想を持っている人たちが、“はじめの一歩”を踏み出したこと。SDGsのような大きな目標ではなく、自分たちでできることからスタートし、数年かけてスケールしていくというものです。思い切った新しい試みとなるサービスや考え方、取り組みもたくさんありました。

安次富:まさに2021年度の審査テーマである「希求と交動」を体現している受賞作が目立ちましたね。今までは商売を繁盛させていくための「要求」や「欲求」を声高に求め、成長し続けてきました。しかし、コロナ禍によって世界中の行動が制限されてからは、大きな声ではないけれど、助けを求めるような、「請い願う」ような声が聞こえてくるようになってきた。

それで「希求」という言葉が思い浮かびました。必要なのは「希求」をもとに、「交動」を迅速に起こしていくこと。人々の希求に対して、即座に動いてデザインの力で解決を目指す。そこに、投資が集まるようになってきました。こうした社会の動きを齋藤さんも私も察知し、出てきたキーワードが「希求」と「交動」でした。

齋藤:業界を越境して新しいものやサービスを生み出し、社会実装していくことがデザインのあるべき姿であり、社会全体として目指すべき方向であると、デザイナーやグッドデザイン賞に応募する企業や団体だけでなく、経済界を含めた世の中全体の考えが一致したのだと思います。

安次富:デザインとは、ある目標や目的を達成するための手段やアイデアを考え、社会実装させていく、そのプロセスすべてのこと。つまり、人が行う行為は、ほぼデザインであると私は考えています。デザインは「悪いことをしない」という前提があり、社会的にも自然環境と共生して「良い方向に向かうべきだ」という意識が高まりました。そうしたことに共感する個人が、行動を起こしやすい社会になったとも言えるでしょう。

齋藤:デザインは行為であるからこそ、サプライチェーンの中身まで目を配る必要があります。それも、コロナ禍による影響のひとつですね。

当初は懐疑的だったOriHimeの価値

──受賞作で印象に残ったものは。

安次富:SDGsをはじめ、社会課題を意識するのが当たり前になってきたのだと感じました。大賞の「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」と「分身ロボット OriHime」(オリィ研究所)は、その代表的な事例であり、とても素晴らしい取り組みだと思います。実は当初、私は「OriHime」に対して懐疑的でした。私はプロダクトデザイナーなので、どうしてもロボット自体のスタイリングや...

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