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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

シニア広告の秀作、駄作

楓セビル

ポーランドのECサイトAllegroの「English for beginners」。初心者向けの英語キットを購入した老人の姿が描かれる。

毎年8月21日は「全米シニアシチズン・デー」という高齢者を祝う祭日である。もっとも日本の「敬老の日」のように休日ではないためか、ほとんどの人はこの日の存在さえ知らないという、あまり意味のない祭日ではあるが。

とはいえ、米国の高齢者人口が年々増加していることは事実である。2017年に米国国勢省が発表した調査によると、シニア(65才以上)の数は4700万人で、この数は2060年までには倍になると予測されている。2035年までには、米国の歴史で初めて、シニア人口が子供の数より多くなるという。

広告の中のシニア

こうした歴然とした数字があるにも関わらず、シニア消費者を本気で狙う米国のマーケターは、これまで稀少であった。ときどき目にするシニア向け広告は、「Help! I’ve Fallen but I can’t get up(助けて!転んだの、でも立ち上がれないの)」というニックネームまでついた、リュウマチ、高血圧、歩いて入れるバスタブなどの広告がほとんど。いわゆる"scare tactics"と呼ばれるこれらの広告は、シニアの肉体的、精神的な不安につけ入って物を売ろうとする、ネガティブなものばかり。シニアのエモーショナルなニーズを理解し、彼らの心に触れるアプローチを取り入れている広告は、残念ながらそう多くはない。

いま米国のマーケットの主役となっているミレニアルやジェネレーションZをターゲットにした広告の中にシニアが現れることもあるが、ほとんどが「彼らを笑い者にしたり、からかったりしているもので、見ていて気持ちのよいものではない」と『Fast Company』誌のライター、ジェフ・ビアーズは記事の中で非難している。

高齢化社会が進む中、何故シニア向けに質の高い広告を作ることができないのか?一つには、アメリカのマーケターの多くが、年齢にこだわり過ぎる習性を持っているからだ。彼らは消費者を18~34歳(ミレニアルズ)、35~54歳(ジェネレーションX)、55~75歳(ベビーブーマー)の3つの世代に分けて考えている。つまり、消費者が何年生きてきたか、どの世代に属しているかに焦点が当てられ、同じ世代に属す人は購買習性も、動機も、ライフスタイルも、みな同じとみなすのだ。教育、結婚、子供の有無、キャリアといった違いは無視されている。

だが、2018年のマッキャンとPaley Center of Mediaの共同調査結果を見れば、この考え方が間違いであることが一目瞭然だ。マーケターから忘れ去られているシニアに、「学校に戻る」「新しいビジネスを始める」「心をときめく相手とデートをする」には、自分たちは年をとりすぎていると思うかという質問を投げかけたところ、ほとんどが「ノー!」と答えていた。年齢が消費者習性を測る物差しとして不適当だということが理解できる。シニアの多くは、携帯電話を使い、オンデマンドでビデオを見、ソーシャルメディアを利用している。

マーケターの多くが若い消費者を狙うもうもう一つの理由は、彼らに向けて作る広告が"エキサイティング"だからだ。未だ消費習性の決まっていない彼らには、これまでにないクリエイティブでイノベーティブな広告を投げかけられる …

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