クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、荻窪の新刊書店「Title」店主の辻山良雄さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『コルシア書店の仲間たち』
須賀敦子(著)
(文春文庫)
勤めていた会社を辞め、自分の本屋を開こうと思ったとき、記憶の奥底から浮かび上がってきたのは、須賀敦子がかつて勤めた「コルシア書店」の姿であった。ミラノの教会の軒先に間借りした小さな書店には、本を読む人、書く人が行き交い、出版活動も行われていたが、自分でもそのような〈動いている場所〉をつくりたいと思い、Titleという書店を開いた。
『コルシア書店の仲間たち』を最初に手に取ったのは、大学を卒業するころだったと思う。デビュー作の『ミラノ霧の風景』を読み、こんな端正な文章を書く人がいるのかと驚き、もっとこの作者の書く文章を読みたいと思った。書店の入口近くの椅子に腰かけ、店員に本を用意させるツィア・テレーサ、詩人であり書店の中心でもあったトゥロルド司祭など、この本には忘れがたい人物が何人も登場する。最終的に、書店は人の手に渡り、勤めていた仲間たちは自分の生きる場所を求めて別れてしまうが、だからこそ追憶の物語はいつまでも美しくあり続け、心に残るのだ …