クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今月はグラフィックデザイナーの大谷有紀さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『資生堂宣伝史 I 歴史』
(非売品)
この本は、わたしが資生堂に入社したときに宣伝部から配布された書籍のうちの一冊。明治5年の創業当時から昭和35年に至るまで、約90年間の資生堂意匠部の歴史である宣伝活動の資料が網羅された資生堂広告の図鑑のような一冊。今でも大切に、気になるページにはときおり付箋を貼ったりしている。
企業の販売促進の手段ということを超えて、ロゴタイプからイラストレーション、女性像、唐草、など時代時代の風俗のうつりかわりはあるものの今見てもまったく色あせない強さと新鮮さがある。文化的価値を感じとることができる「もの」たちに毎度のことながらわくわくさせられる。そういう心に響くような「もの」がこの先ひとつでもわたしなりの方法で残せたらと思う。
商品を正しく知らせると同時に、人々の心のなかにも美しいなにかを残していくような、「リッチ」「気品」「豊かさ」といった宣伝が目ざす精神はわたしが入社した当時も受け継がれていた …