冷やすと固くなり、人肌以上で柔軟性を増すという特徴を持った三井化学東セロの形状記憶シート。その不思議な特性を生かして、新たなプロダクト「UNFRAGMENT」をつくり上げたのは、コクヨの佐々木拓さんだ。
「割れたら壊れる」に反した新しい価値
最初に手にしたとき、お餅みたいな独特の感触が面白いと思いました。この柔軟性を生かしたプロダクトを試行錯誤する中で、伸びない素材と伸びる素材を組み合わせると、より伸びが強調されて感じることに気づいたんです。最初は厚紙や革をこのシートに平面的に貼っていたのですが、それを円錐形の立体にしてみたら、伸ばした状態からきれいに元の形へと戻った。その動きに面白さを感じました。そこから、「元に戻る」という特徴をプロダクトの意味合いで使えないかと考え、初めからバラバラに割れている形状の壺をつくることに決めました。
例えば金継ぎは、漆と金で継なぐことによって古いもの以上に価値が生まれる時がある。この壺も割れている箇所に形状記憶シートを仕込むことで、壺の入り口より大きいものを中に封じ込めることができる。広がって元に戻るという新しい機能がプラスされることで、割れたら壊れるという一般的な物理法則に反した新しい価値をつくることができるのではないかと。
そこで、形状記憶シートの厚みや色、割れ目の形状を変えて、伸びを試しました。最終的には形状記憶シートと樹脂でつくった壺の接着面を減らして動かせる部分を多くし、割れ目をシンプルにすることで、きれいに伸びて、戻るようになりました。
従来は木なら木の、鉄なら鉄の素材の特性に合わせた設計作法を意識しながらデザインしますが、こういう新しい素材は、どう処理するのがいいのかから考える。ルールがまだないので、これまでとは違う発想につながるのではないかと思いました。
また、そうするとプロダクトの前提条件も覆されます。多くの人は当たり前のように完成したプロダクトを買うわけですが、もしかすると完成してなくてもいい。初めから壊れた状態の新商品があってもいいんじゃないか…。こうした可能性も、今回のプロジェクトを進める中で考えさせられました。
今月使った素材について
新開発の形状記憶シート(開発品)は、サンプル供試を開始して以来、それに触れた多くの人たちを虜にしており、「初めて触った感触」、「ずっと握っていたくなる」、「ゆっくり元に戻る動きがユニーク」とこれまでにない触感の素材として評価いただいています。同シートは伸ばしたり・丸めたり・クシャクシャにしても戻っていく「形状記憶性」を有する新素材です。
温度依存性が大きく「冷やすと固くなるが、常温~50℃付近で柔軟性を増す特性」を持っているため、独特なしなやかさと柔軟性が得られます。そのため、人体に触れている部分は柔らかく、触れていない部分は若干硬いので、サポートされたような感覚が生まれます。人が触れることで変化するため、ヘルスケア、医療、介護、スポーツ、各種シート、クッション、ベッド等の使用者にフィットするような用途で、世界に一つだけの製品開発に貢献できる素材として期待されています。