博報堂で6年間、アートディレクターとして働いた後、ロンドンで10年間、ブランディングとデザインの領域に取り組んできた中臺隆平さん。今年10月に帰国し、ロンドンでの経験を強みに、今後日本で活動していく予定だ。
ロンドンのデザインを肌で感じたかった
中臺隆平さんは博報堂でデザイナー/アートディレクターとして6年間働いた後、29歳で渡英。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ大学院デザイン科でデザインリサーチなどのデザイン理論を学んだ。
「ロンドンに行きたいと目標を抱いたのは、博報堂で働いていた頃でした。広告のことをしっかりと理解しないまま入社しましたが、アートディレクターとして働いてみて、僕は広告よりもデザインで世の中に貢献したいと気づいたんです。ロンドンにはバーンブルックデザインやペンタグラムなど、規模は大きくなくても世界的な仕事をしている事務所が多くあります。それがなぜなのか、肌で感じたかったんです」。
大学院在学中にバーンブルックデザインでのインターンを経験し、卒業後はフリーランスを経て、ロンドンでアートディレクターの近藤有稿さんとLand Ahoy Designを設立。主にWebやエディトリアルのデザインの仕事を行った。並行して、ブランディング会社Winkreativeでフリーランスのアートディレクターとして、ブランディングデザインの仕事も経験した。
「ロンドンでは会社に在籍しながらフリーで仕事をするのは普通のことです。両方の仕事をしているうちに、デザインだけでなく、より上流の戦略からブランディングをやりたいと思うようになったのですが、Land Ahoy Designはどうしてもデザイン会社と思われてしまう。そこで新たにブランディングをメインにした会社を作ることにしました」。当時、一緒に仕事をしていたクリエイティブディレクターの物延信さんと共に3人で、ブランド&デザインハウスAnyhowを設立し、活動してきた。
友人・知人のネットワークから仕事が来る
日本とロンドンの違いについて、中臺さんは次のように話す。「日本にいる時は友人関係で仕事をするのは私的にお金を流すようであまりよくないイメージをもっていました。でもロンドンでは真逆。基本的に友人、知人から仕事が来ます。面識がない相手にメールで連絡を取ろうとしても、あまり返ってきません」。
そのため、ロンドンで仕事をするためには友人関係をいかに築くかがとても重要になるという。ほとんどの人は、ネットワークを作るためにまずエージェンシーからキャリアをスタートする。いきなり起業するケースはまれだ。ギャラリーのオープニングなどもそうした出会いの場として活用されている。
また、実際に仕事をする時に最初に来るのはお金の話。「お金の話、そしていつまでに何をやるかのスコープを決めて契約するまでは手を動かしません。手付金も日本にはない習慣です。クライアントとの間だけでなく、カメラマン、エディター、コピーライターなどこちらがお願いするクリエイターともまずお金の話をして、契約書を交わします。最初は嫌で慣れませんでしたが、徐々に、自分に値づけをするのが当たり前になりました」 …