クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、イラストレーターの七字由布さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『Noirs』
Ilan Manouach(著)
(La Cinquième Couche)
シャルリー・エブド襲撃事件後、厳戒態勢の中で行われた2015年のアングレーム国際漫画祭。訪れたリトルプレスのブースでは「バンド・デシネ」という括りも「本」という括りもなく、多種多様な本が所狭しと並べられていた。そこで出会ったのが「黒」と題されたこの青い本。オリジナルは青い妖精のキャラクターでお馴染み「スマーフ」シリーズ第1巻、ペヨ著「Les Schtroumpfs noirs(黒いスマーフ)」。
一つの言葉しか発せない暴力的な黒いスマーフが青いスマーフに襲いかかり、襲われた青スマーフもまた黒スマーフになるという、ゾンビ物語の原型になったとも言われるコミックである。が、欧州では人種差別的として長年に渡り物議を醸してきた。
本書はベルギー人アーティストのIlanによるもので、造本はそのままに、青一色で印刷することで、「青」と「黒」の境界線をなくすという解決策を示した作品だ。どうとも解釈できそうなところに示唆に富んだ皮肉を感じる。奥付のないこの本を見ながら、表現に対する寛容さ、表現を許容することの傲慢さもまた「青」と「黒」のように表裏一体であると、この年の時事と共に思い出す。ちなみにUS版では「The Purple Smurfs」として色を変えている …