IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

デザイン会社進化論

建築とデジタルのシームレス化で現れる新しい地平

豊田啓介

建築にデジタルの技術や思想を取り入れた「コンピュテーショナルデザイン」で建築界に変化をもたらしているnoizの豊田啓介さん。近年では、プログラムの制作やリサーチ業務など、建築事務所の範疇を超えた依頼が次々と寄せられているという。豊田さんはnoizをこれからどう進化させていくのか、室井淳司さんが聞く。

Photo : parade inc./amanagroup for BRAIN

建築事務所の範疇を超えた何か名前はまだ見つけられない

室井▶ 豊田さんの活動に関心を持ったのは、一昨年のWIREDのカンファレンスがきっかけです。作っているものの斬新さに「これは建築なんだろうか」と驚いて。

豊田▶ 自己紹介の時に悩むんです。活動の軸足は設計にありますが、社会で定義されていないことをやっているので、自分でもうまく説明ができなくて。世の中の人に、もっとわかってもらえるような名前をコピーライティングしないといけないですね。

室井▶ 豊田さんが建築にデジタルを取り入れる「コンピュテーショナルデザイン」をはじめたきっかけは何だったんですか?

豊田▶ コロンビア大学への留学です。その前は安藤忠雄建築研究所にいたんですが、もともとアルゴリズムみたいなものに興味があって、勉強したいと思って。

室井▶ コロンビア大学は日本の大学とどう違いましたか?

豊田▶ コロンビア大学には「失敗に投資する教育」があるんですよ。例えば、絶対に成り立たないと一目でわかるふにゃっとしたモデルをベースに教授までまじめに議論している。最初は「何をアホなことをやってるんだ」と思いましたが、現実に成立するかという整合性はさておき、展開していくことで違う可能性が見えてくるというのが彼らの考え方なんです。整合性を保ったまま考えていたら絶対にたどり着けない場所に行くことが大事で、整合性やリアリティはそこに行ってから考えればいい。あらゆる方面に弾を打って、99%は無駄でも1%の光るものに出会えたら、そこに集中してバーッと新しい可能性を開いていく。

室井▶ 確かに日本の建築教育とは全く異なる方法論ですね。

豊田▶ 日本の大学でも教えているんですが、どうも個人の中にある思いや個性を突き詰めることを良しとしすぎる気がして。コロンビア大学では、個人の中に閉じこもらずに、社会と共有しながら作っていく感覚がありました。あくまでロジカルに積み上げながら作っていって、自分の想像とは思いもよらないアウトプットになっても、過程が正しければよしとする。そのガイドとして、デジタル技術はとても有用なんです。パラメーターの設定によって、自分では思いもつかないアウトプットに導かれますから。自分のタガを外して新しい場所に行くための乗り物として、デジタルを使っていたんだと今では思います。

室井▶ コロンビア大学の後はすぐに日本に戻ってnoizを立ち上げたんですか?

豊田▶ コロンビア大学の後にNYのSHoParchitectsという設計事務所に入り、デジタル技術を実際の社会の中で実装する仕事をしていました。4、5 年いて、アメリカの環境下ではデジタル技術でバリューが出せることがわかったので、「アジアでこれをやってみよう」と東京と台北でnoizを設立したんです。

仕事の3割はR&Dに当てている“遊び”があるのがNoizらしさ

室井▶ noizの現在のメンバー構成について教えてもらえますか。

豊田▶ 東京事務所のメンバーは15 人で、インターナショナルであることを強く意識しているので、常に5、6カ国の人がいます。アジアに限らず、アメリカ、イタリア、フランス、ルーマニアなど、これまでに約30カ国の人が在籍していました。台北事務所には5人のメンバーがいます。

室井▶ 皆さん建築出身なんでしょうか。

豊田▶ 建築出身の人も、プログラミングが専門の人もいます。今後、建築事務所にはプログラマが必須の存在になると思います。ただ、プログラマとデザイナーの中間の人たちも必要という意識で、グラデーションになるように配置しています。その配合具合をコントロールすることで、間接的にnoizのアウトプットを作るのが僕の役割です。

室井▶ “ 普通の建築”の仕事は、全体の仕事のどの程度の割合なんですか。

豊田▶ 約半分です。インタラクティブに生成するプログラムの納品やAIを建築にどう生かすかといったリサーチだけの仕事も数多くあります。全体的には3 割程度をR&Dに割くようなイメージですね。例えば今「編み物のアルゴリズム」を研究しているメンバーがいます。編み物の設計図である「編み図」って意外にわかりにくいんです。でも、編み物の物理的な形状の生成能力というのはとても特殊で面白くて。編み物のアルゴリズムを研究して、任意の形を入れると編み図を生成するプログラムができれば、将来は編み図のロジックで家を設計できるかもしれません。

室井▶ それは、形先行で入って、そこから設計図を作っていくということですか?

豊田▶ 今はそうです。その次の段階では、設計図から出力した物からまたフィードバックを得て、それを元にまた調整して…と双方向から精度を高めることをリアルタイムでやっていくんです。ノーテーション(記譜法)自体が自律的に働きかけるシステムというか。

室井▶ なるほど。設計のアプローチ自体が全然違うというか …

あと56%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

デザイン会社進化論 の記事一覧

建築とデジタルのシームレス化で現れる新しい地平(この記事です)
発想も組織も自由にしていく サムライ流デザイン「道」

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
ブレーンTopへ戻る