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私のクリエイティブディレクション論

CD目線の課題発見と自由な発想を同時進行する

古川雅之

キンチョウや赤城乳業など、「一体どうやって発想したの?」と思わず聞きたくなってしまう、見たことのない広告。こうした広告は、一体どうディレクションされているのだろう?関西のクリエイターを代表する一人であり、話題の広告を生み出し続けている、電通関西支社の古川雅之さんに聞いた。

古川雅之(ふるかわ・まさゆき)
1969年九州生まれ、大阪育ち。グラフィックプロダクション、広告会社を経て、1999年に電通関西入社。「大日本除虫菊」(キンチョール/虫コナーズ/サンポール/コバエがポットンほか)、「赤城乳業」(BLACK/ガツン、とみかん/ドルチェTime /アイスパフェ/ガリガリ君/値上げCMほか)、「日清紡」(ドッグシアター2012~)、「梅の花」(歌シリーズ)、「サントリー」(リゲインエナジードリンク)、「朝ゴミを出す」、「風呂掃除」、「窓を拭く」などが主な仕事。ACCグランプリ、TCC賞、佐治敬三賞などに当選。

CD目線の課題発見と自由な発想を同時進行する

―普段どんなスタイルでクリエイティブディレクションをされていますか?

僕たちのやり方はもしかしたら少し特殊かもしれません。電通関西の僕らのチームは、昔から2人や3人の少人数チームを組みます。CDとプランナーしかいない2人のチームでは、CDが方向性だけ示したり、ジャッジするだけにはならないので、CDもプランナー・企画者として考えます。考えないとジャッジできないし、そもそも考えたい人が集まっているんです。

先輩たちも自らアイデアを出しながらジャッジするCDばかり。どこがダメか、どう考えたらいいかはほとんど言ってくれない。ほぼ「ありか、なしか」だけ。当時はわからなかったのですが、思い返すと、「何か変なことをやりたい」「ただ目立ちたい」と狙って出した案はやはり小手先で全然通らなくて、たまに「いい」と言ってもらえたものから学びました。表現よりも「これを言うのは、あるな」という感じ。

当時は先輩たちも一緒に企画して並走してくれていると思っていたけど、実は考えている領域の広さが全然違った。先輩たちはCDの目線を持ちながら、同時に飛びぬけた表現を考えていました。そもそも「今回、なにを言うか」から、しっかり面白かった。かなわないわけですよね。


赤城乳業 ガリガリ君「値上げ」新聞広告



大日本除虫菊 キンチョウ「蚊文字」新聞広告



(上)大日本除虫菊 コバエがポットン「逃げられた男」篇
(中)大日本除虫菊 サンポール「サヨナラの文字」篇
(下)大日本除虫菊 虫コナーズ「はずしてみたら」篇



―自分でアイデアを「出せるようになった」と感じたのはいつ頃だったのですか?

僕は元々グラフィックプロダクションのコピーライターで、30歳で電通関西に入ってから本格的にCMの企画を始めました。堀井博次さんや石井達矢さんなど「堀井チーム」が連発するヒットCMに憧れていたんです。でも、入社してみるとそこには「グラフィックとCMの思考の違い」の壁がありました。例えば新聞広告なら、キャッチがあってリード、ボディと、ロジカルに思考を絞り込んでいくひとつの型がある。けれど、面白いCMを考えている先輩たちを見ていると、ロジカルに考えているかと思ったら、脳みそをぱかーっと開いて発想している。「何を考えるかを考えろ」と随分言われましたが、なかなかその意味がわかりませんでした。

コピーライター出身なので、僕はCMの企画を考える時にも言葉に頼るタイプです。ある時期、企画書に凝ったことがあって。課題解決のためのロジックを一つひとつ言葉にしていくんです。「課題はこれ、問題はこれ、でももっと本質的な問題はここで、ゴールはここですから、それを解決するキーコピーはこうでCM企画はこうです」と。課題を洗い出してロジカルに正解にたどり着いていく感じは気持ちいいし、プレゼンイメージもわく。でも問題は、ジャンプできないんですよ。まっすぐな道をまっすぐ助走して、踏切位置もここだと自分で決めて、いざ表現だけジャンプしようとしても「正しいけど面白くない」という結果にしかならない…。おかしいなぁと。

それで、やり方を変えました。まず、企画書を書かない。それから ...

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