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『キャプテン翼』作者・高橋陽一さん「キャラクターが物語に与える息吹」

高橋陽一さん(漫画家/『キャプテン翼』作者)

国内外のプロサッカー選手に影響を与えた「キャプテン翼」。ワールドカップイヤーの今年、さまざまなコラボプロジェクトが進む。同作を生んだ高橋陽一さんは、30年以上、ストーリーが愛され続ける源は「キャラクターにある」と話す。

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漫画家 高橋陽一さん(たかはし・よういち)
1960年7月28日東京都生まれ。80年、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で読み切り版「キャプテン翼」でデビュー。翌年同誌で連載を開始。アニメ化、映画化、ゲーム化を果たし、サッカーブームの立役者となった。アニメは海外でも放映され、国内外問わずプロサッカー選手に影響を与えている。2001年『週刊ヤングジャンプ』(同)で「キャプテン翼 -ROAD TO 2002-」、2005年には「キャプテン翼-GOLDEN 23-」を連載。現在は、月2回刊『グランドジャンプ』(同)にて「キャプテン翼 ライジングサン」を連載している。その他の作品に「CHIBI」「ハングリーハート」「100Mジャンパー」など。

立体化していく作品世界

連載開始から約30年が経ついまも、多くのファンに愛される漫画「キャプテン翼」。1981年に連載を開始して以降、断続的に新シリーズを掲載してきた。現在は『グランドジャンプ』(集英社)で「キャプテン翼 ライジングサン」を連載している。主人公・大空翼が、スペイン・プロサッカーリーグ「リーガ エスパニョーラ」のトップチーム「バルセロナ」に移籍して以降、U-23日本代表を率いてオリンピック金メダルを目指すストーリーだ。

「漫画は時代の変化に応じて移りゆくものでもあるのですが、こんなに長くに渡って、愛してもらっている。漫画だけでなく、広告やコラボレーション企画にも活用していただけているのは素直に嬉しく思っています」と作者の高橋陽一さんは語る。

サッカーワールドカップ(W杯)のブラジル大会が開かれる今年、6月12日の開幕から2日後、同14日から原画展「ボールはともだち。キャプテン翼展」を上野の森美術館(東京・台東)で開催する。原画のほかにも、175センチメートルの、翼の等身大フィギュアや、物語の舞台となった南葛市のジオラマが並ぶ。体験型サッカーアトラクションも予定する。漫画に出会う前は「絵描きになって食べていきたかった」と話す高橋さんは、美術館での展示に喜びをにじませる。

2013年末の「ライジングサン」の連載開始を受け、W杯イヤーの今年、コラボレーションプロジェクトが相次ぐ。Jリーグとは「Jリーグ×キャプテン翼 DREAM SHOOT」を開始。作中のキャラクターが放つ「必殺技シュート」をJリーグ選手が再現する企画だ。第一弾は急カーブでゴールに迫る、早田誠の「カミソリシュート」を、FC東京の太田宏介選手が見事に放って見せた。3月11日、YouTube上で動画を公開したところ、およそ1カ月で約425万回再生されている。

「展覧会で、作品の舞台だった南葛市がジオラマとして立体化されたり、必殺技シュートが再現されたりと、漫画の世界観が広がっていくのは感慨深く、作者としても楽しませてもらっています。キャラクターたちの技は、実際には不可能なものもありますが、主人公のドライブシュートは、実際に打てるシュートであったりもします。現実とつかず離れず、幅を持たせていることが受け入れていただけている理由のひとつなのかもしれません」。

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「キャプテン翼展」は5月31日までの期間限定で、主人公・翼が小学生時代に所属したチーム「南葛SC」のユニホームがつく特別前売り券を販売する。サイズはS・M・Lの3種類で、値段は4900円(通常の前売入場券は大人・大学生1400円、中高生600円、小学生400円)。

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サッカーワールドカップ・ブラジル大会開幕の2日後、6月14日からは東京・上野の森美術館で原画展を開催。

30年以上作品が愛される理由

『キャプテン翼』シリーズは、プロサッカー選手だけでなく、広告業界でもファンの多い作品だ。高橋さんも、「よく『昔、読んでいました』などと、CMのディレクターさんとか、キャンペーンの関係者の方々からもそう言っていただけることが多く、それでコラボ相手としてピックアップしてくださっているのかなと感謝しています」と、“子ども”にも等しい作品がいまだ支持されることに顔をほころばせる。

3分の1世紀近く、作品が愛され続けているのは、一体どんな理由があるのだろうか。「スポーツとしてのサッカーの特徴が影響しているのか、とも思うんです」と高橋さんは言う。「サッカーは、個々の選手が自由な発想でプレイできるスポーツなので、描けるシーンがとても多様なんです。翼には日向小次郎というライバルがいて、岬太郎という無二の親友がいる。でも、それだけではない。11人対11人の戦いですから、キャラクターたちの組み合わせは無限大に広がっていく。漫画は、キャラクターあってこそだと思いますが、個々のプレーヤーが適材適所で、組み合わさって、化学変化を起こしてくれるからこそ、物語をつむいでこれたと思うのです」。

キャラたちは、1981~88年の連載で小学生、中学生~国際ジュニアユースと成長し、1994~97年にワールドユース篇で再登場。2002年日韓W杯の前後は「キャプテン翼 ROAD TO 2002」、その後もプロサッカー選手として国内外のリーグに所属し、活躍が描かれている。読者からは「○○くんが好きです!」「翼みたいな選手になりたいです」といったファンレターが山のように届く。イタリア・セリエA「ACミラン」の本田圭佑選手はコミックス再録版のインタビューで「小さい頃は相当、日向のプレイスタイルに影響を受けた」と答えている。各々好きなキャラに感情移入して楽しめるのが「キャプテン翼」の魅力だ。

「僕自身も、最初のシリーズが終わって、もう描くことはなくなったかなと思ったんです。けれど、また会いたくなっちゃったなぁ、また一緒に戦いたいなぁというふうに思ってしまうんですよ。キャラクターたちが、まだ元気でいてくれているので」。

実は野球部出身という高橋さん。仕事場には、草野球で盗塁数を表彰されたトロフィーが飾ってある。漫画との出会いも、『巨人の星』(作=梶原一騎、画=川崎のぼる)や『ドカベン』(作=水島新司)などの野球漫画が入り口となった。

野球漫画とサッカー漫画の違いは、対決の描き方。野球漫画の見どころはやはり、ピッチャーとバッターの一騎打ちだ。一方、サッカーの試合の場合は「ファンタジスタ」という言葉が象徴するように、フィールド上で、創造性あふれる自由なプレイで魅了してくれる点にある。高橋さんも試合を描く際にはフィールドを俯瞰で見る視点と、自分がフィールドの中のカメラになるような、マクロとミクロの視点がある。

「シュートシーンを描いていても、コマの外で誰がどう動いているかを意識しています。画面では見えていないけど、すぐ側にカットに入ろうとしている選手がいるかもしれない、キーパーはシュートを読んで、もう動き始めているかもしれない。ある一瞬を描く時でも、その周りを見ているようなところがあります。そこに個々のキャラの性格を考えていくと、プレイの幅は一気に広がっていきます」。

「キャプテン翼」は、同作が登場するまでに人気を集めた、いわゆる「スポ根モノ」よりも画面の印象が爽やかな点も特徴だ。「やっぱり、スポーツ自体は楽しくなくては、という考えがあって。誰でもスポーツに初めて触れるときは、楽しいから、というのがきっかけだと思うんです。もちろん苦しい場面もあるんですけれども、やっぱり爽やかに描きたいという気持ちが『翼』の原点になっています」。

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Jリーグとコラボレーションで、「キャプテン翼」の必殺技シュートを再現する企画「Jリーグ×キャプテン翼 DREAM SHOOT」。第一弾は早田誠の「カミソリシュート」に、FC東京の太田宏介選手が挑んだ。

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「キャプテン翼 ライジングサン」は、新人ながU-23日本代表による、オリンピック金メダルを目指す、主人公・大空翼たちの挑戦を追うシリーズ。

斬新な表現の広告は記憶に残る

一言ひとこと確かめながら、ぽつりぽつりと言葉をつなぐ高橋さんだが、「基本的に、誰も描いたことがないことをやりたいですし、見たことがない構図、常に迫力ある絵を描きたい」と作画に対する思いは熱を帯びる。

「サッカーは常に動き続け、流れていくスポーツなので、そのダイナミズムはもちろん描きたいのですが、意識しているのは、一瞬止まるときです。キックオフの瞬間や、シュートを放ったとき、ゴールが決まったときが、その一瞬です。そこで歌舞伎の見得のように、キャラをどう魅力的に描くかを大事にしています」。蹴り足やスパイクの大きさは、多少デフォルメして、読者に迫るように大きく描く。人の身体ながら手を細くして遠近感をつけたり、上半身、下半身のひねりで力強さを表現したり...いつも新しい描き方を、とチャレンジを続ける。

「そういう刺激をくれるのは、例えばスポーツフォトグラファーの作品などですよね。そのまま描くわけではなく、撮り方の斬新さや、構図から受けた衝撃を超える絵を描きたいと思うんです。自分が受けた印象は、どこか蓄積されているので、それと同じ気持ちを読者に提供できたらいいのですが」。

表現から受ける「新しさの体験」は広告も、その源泉となることがある。「日本のテレビCMも一時期、とても面白くて、90年代ぐらいですかね。テレビ番組よりCMを見ていたほうが面白いんじゃないかと思っていました。最近でも、人やキャラクターの動きの描き方が新しいと目がいってしまいますし、オーソドックスなものを新しく捉えよう、見せようとする表現は、刺激になります」。

真っ白なページからスタートした漫画が誌面を飛び出し、アニメ化、映画化を経て、Jリーグや海外クラブとのコラボレーションまで。「いろいろな関係性の人に『キャプテン翼』が届けられるのを見ると、コミュニケーションの力というものはとてつもないと感じられる」と高橋さんは言葉を結んだ。

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「常に、誰も描いたことがない、見たことのない構図を描きたい」と話す高橋陽一さん。特に、試合が一瞬止まるシュートシーンやキックオフ時に、キャラにどう迫力ある“見得”を切らせるか、毎回チャレンジを続けている。

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