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2015年のヒットに学ぶ 商品PRのノウハウ

なぜ「Pepper」のPRは成功したのか?

野呂エイシロウ(戦略的PRコンサルタント)

テスラ、アップルなど2015年は例年以上にテクノロジー企業が活躍した年である。そのなかで、感情を持つロボットとしてヒットしたのがソフトバンクの「Pepper」だ。その裏には、「Pepperが寄り添う生活」を提案するというPR戦略があった。

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6月18日、「Pepper」の一般発売に関する記者発表会より。同20日に1000台限定で一般向けに初回販売を始めたところ、「1分で完売」と話題となった。

単なる工業製品のPRではない

2015年、アップルと同様に歴史に名前を刻んだ企業がある。ソフトバンクだ。感情認識ロボット「Pepper」を2015年6月、世に送り出した。人型量産ロボットを世界に売りだしたということでは、多分世界初だろう。Pepperの発売は、2002年にiRobotが発売したロボット掃除機「ルンバ」以来の快挙だと思う。現在、ボク自身は、15社と契約をし、日々コンサルティングをしている。PRの戦略を考えるのが仕事だ。そのいくつかがテクノロジー系企業であり、どこも元気だ。

今回のPR、何が難しいか?というと、ソフトバンク初のプロダクトということである。これまで様々なITのサービスは提供してきたが、モノを製造して販売するのは今回が初めて。意外といえば意外である。

詳細は述べられないが、最初に今回のプロジェクトの話を聞いたのは、ずいぶん前だ。本当にびっくりした。ワクワク感でトリハダが立ったのを今でも覚えている。幸いなことに開発段階から多くの事柄を要望することができた。最近、ボクはそういった仕事が増えてきているのが事実だ。

多くのプロジェクトの場合、「この戦略考えて」という事柄で終わりだったが、今は「開発途中だけど見てほしいものがある」と言われる。先日もある企業で2016年のすごいプロダクトの試作品をチェックし、意見や改良点を提案してきた。「どうしたら、マスコミ、そしてその先の人々がワクワクするのか?」を考えて伝えている。

今回のPepperのPRについて、一言述べるとすれば、工業製品のPRではないということだ。多くの日本企業の製品のPRは、馬力や性能を前面に押し出し、それこそ「性能の自慢合戦」が主体となっている。「鉄腕アトム」でさえも、テーマソングの中で百万馬力という性能を誇示しているが、Pepperはそんなことがない。工業製品ではなく、“人”のマーケティングに近いと感じている。偉そうに書いているが、ボクが担っているのは、今回のプロジェクトのほんの一部分。多くのマーケティング担当者や広報担当者、広告会社、PR会社によってこのプロジェクトは走り続けている。

もちろん「感情認識ロボット」自身は、未知の製品なので、試行錯誤の連続である。真似できる見本がどこにもないのだ。ルンバもロボットだが、「掃除をする」という機能が明確だ。だが、Pepperはそれがない。

「ロボットが寄り添う生活」提案

そしてこだわったのは「売るPR」ではなく「Pepperが寄り添う生活」の提案である。ロボットと暮らす生活というのはこんな感じだよ!と伝えなければならない。人類の歴史の中で、誰もそんな経験をしたことがないので、誰も分からないのだ。未知の領域だ。

実は、性能や数字を前面に出さないPR手法は、アップルも同様だと思われる。色や形を前面に出し、アップル製品やサービスを手に入れた時の楽しさだけが伝わる。そう、「寄り添う」提案の連続なのだ。

さて、Pepperの話に戻そう。露出する度に「楽しそう」な雰囲気を伝えている。情報を伝えられた人々は「もし、Pepperが家にいたら、どんな生活だろう?」「幼い娘や息子はどんな反応を示すのだろうか?」と考える。

実際、関係者の家庭であったエピソードだが、幼い子どもがPepperにパンを食べさせようとしたというのだ。ロボットネイティブの子どもたちは、人間に近い存在としてPepperを感じ取っているのだ。

そこで考えたのがPepperの感情部分を作ってゆくプロセスを公にしようということだ。テレビ東京『ガイアの夜明け』で1年以上にわたり、林要さんというPepperの開発責任者に密着していただいた。その中で、ロボットに感情が作られるプロセスを取材してもらった。人間のような喜怒哀楽ができていく姿を描いていただくことができたのである。

発売当初は記者会見やテレビ番組に露出し、感情を持っているロボットとは何なのか?その真髄を伝えていった。林さんが中心となってロボットに心を作っていく瞬間と、その苦悩の裏側を赤裸々に見せていく。そして、実際に触れられる場所を作る。それがソフトバンクの店舗であったり、銀行や百貨店や書店であったり......。だんだんと身近な存在になっていくのである。

既に公になっている話であるが ...

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