『個』を受け入れる余白や曖昧さのある場づくり
知り合いが、山道拓人さん・千葉元生さん・西川日満里さんの3人が主宰する建築設計事務所のツバメアーキテクツと仕事をしていると知って、手がけたプロジェクトを調べてみると興味深いものばかり。根底には太い基軸が通っている――主宰者のひとりである建築家の西川さんの話を聞きにいった。
デザインプロジェクトの現在
数年前、「ドライフルーツの羊羹」というユニークな商品と出会い、作っているのが「wagashi asobi」という虎屋出身の二人組と聞いて興味を惹かれた。一度、お会いしたいと思っていたインタビューが実現した。
東京の五反田駅から東急池上線に乗って長原駅へ。商店街を歩いていくと、「wagashi asobi(ワガシアソビ)」という控えめな看板が。白い格子のガラス扉を開けると、笑顔をたたえた2人が迎えてくれた。真っ直ぐな視線で熱く語ってくれる稲葉基大さんと、芯が強くて確かな言葉を紡ぐ浅野理生さん、豊かな個性から生まれた和菓子が、魅力的にならないはずはないと、即座に感じた。
稲葉さんは、和菓子の老舗である虎屋に入社し、東京での勤務を経た後、ニューヨーク店へ。「羊羹を知って食べてもらうには、日本の文化を伝えることが大事」と感じた。海外に出ることで和菓子の持っている大きな可能性に気づいたが、ニューヨーク店を閉めるにあたって帰国。虎屋に勤めながら、「て」という活動に参加した。これは、知り合いを一人、手作りのものをひとつ持参するサークル的会合で、さまざまなジャンルの人が集ってくる。メンバーの一人から、「イベントをやるので、テーマに沿った和菓子を作ってもらえないか」と依頼を受け、やってみたところ、これが好評。依頼が入るようになり、「wagashi asobi」を名乗るようになった。
浅野さんは、もともと和菓子職人になりたいと考えてはいたが、女性を職人として採用する店が少ない時代、紆余曲折を経て京都の老舗鍵善良房で修業した。有名菓子店を経て虎屋に入社。稲葉さんと知り合って「wagashi asobi」に誘われた。個々での活動を繰り返すうちに「稲葉さんと浅野さんで和菓子を」という要望が出てきて、二人で創作を始めたという。
設備や器具もない中、簡単に創作和菓子ができるのか――聞けば、洋菓子と違って和菓子は「極端に言えば蒸し器1台あれば、おおよそのものは作れる」とのこと。職人の手仕事で丁寧に作り上げるのが、日本の菓子と腑に落ちた。
働きながらの創作活動だったので、依頼が増えても代金は取らなかった。「オーダーを受けると、費用は自分たちが出すかたちでやっていました(笑)」。イベントがらみで依頼される菓子ということは、空間の有りよう、テーマとの関連性、訪れる人たちの顔ぶれなど、菓子というモノを通して、コトとのかかわりをデザインする仕事に他ならない。その過程を二人が楽しみ、知恵と技を注ぐ様子が伝わってくる。
2011年4月、二人は独立してアトリエを持った。「知り合いのカフェが閉店すると聞いて、何とか貸してもらえないか交渉した」と稲葉さん。人の温かみや手触りが漂っている居心地のいい空間。工房兼ショップとして、2種類のお菓子を創って売ることにした。
ひとつは、ドライフルーツと無花果と苺、胡桃がまるごと入った「ドライフルーツの羊羹」。あるアーティストのイベントで「パンに合う和菓子」というお題のもとで作ったのがきっかけになったという。白い紙箱に薄い経木の蓋が付いている風情は、一見すると羊羹とは思えない。和の素材をヒントに、テリーヌのような羊羹をイメージした。切り分けると、無花果や苺、胡桃の切り口が浮かび上がって美しい。ドライフルーツの甘味や酸味とラム酒の香りが小豆餡とよく合っている。1cmほどに切って、バターやクリームチーズを塗ったフランスパンに合わせてもおいしいという。
もうひとつは「ハーブのらくがん」。稲葉さんがニューヨークにいた時、グリルチキンに使われていたローズマリーに惹かれた。和菓子に取り入れられないかと考え、行き着いたのがらくがんだったという。口に入れると、まず甘味がふわっと来て、次にローズマリーの風味が効いてきて新しい味わい。日本茶だけでなく、コーヒーやお酒にも合いそうとイメージが広がってくる。他にハイビスカス、カモミール、抹茶、苺、柚子の5種類が揃っている。
下町的な風情が残る商店街にあるささやかなお店「wagashi asobi」。「ドライフルーツの羊羹」が2160円、「らくがん」が4個入りで360円。これで商売になるのか、素朴な疑問が湧いた。「良い材料を使って技を込めて丁寧に作る …